既にクリミア半島の併合とウクライナ東部の不安定化を「成果」としているロシアが、この期に及んで、なぜ2014年以来という規模の大軍を国境付近に集結させているのか。いざ紛争となれば、欧米から一層の制裁を食らうのは不可避で、ただでさえ経済危機や新型コロナウイルス禍が続く中で、理解不可能な面もある。
ただ、背景として少なくとも、先述のようにウクライナ政府がロシアが要求するミンスク停戦合意の履行を拒んでいること、そしてバイデン政権が発足間もないことが挙げられるだろう。今や中国を「唯一の競争相手」とする米国が、ロシアの挑戦にどう対応するのか。「オバマ2.0」とも言われる政権の手並みをうかがっているもようだ。
さらに、ウクライナで主戦論が高まる中、NATOは計2万8000人の大規模演習「ディフェンダー・ヨーロッパ21」を5、6月を中心に計画。米軍の現地入りなど準備は3月から始まっている。ロシアは2014年に「軍事演習」などと偽って隣国に介入した国だ。「自分がやることは相手もやりかねない」と疑心暗鬼になり、ウクライナによる失地回復の契機になると警戒心を抱いているとみられる。古くは「関東軍特種演習」で、ソ連の対日参戦を正当化した国でもある。
物騒なのは、プーチン大統領の側近らが4月に入り、まことしやかに「開戦事由」や「大義」を並べ立て始めたことだ。ショイグ国防相は13日、「ロシアを脅かす(NATOの)軍事活動に対し、われわれはしかるべき措置を取った」と強調し、ロシア軍の集結を正当化。ウクライナ問題を担当するコザク大統領府副長官も先立つ8日、ドンバス地方の親ロシア派住民を保護するためロシアが行動する決意を示した上で、攻撃が仕掛けられれば「ウクライナの終わりの始まりになる」と警告した。
ロシアは、ジョージア紛争の結果として独立を承認した南オセチアなどと同様、ドンバス地方の住民にもロシア旅券を発給している。つまり「自国民保護」名目で、影響圏にいつでも軍事介入が可能な状態にしてある。米シンクタンクの大西洋評議会の専門家は、ロシアが過去2年間にウクライナ東部の65万人以上に旅券を配布したとの報道を引用した上で「ロシア旅券はプーチンの秘密兵器だ」と断じている。
地球コラム バックナンバー
新着
会員限定