会員限定記事会員限定記事

【地球コラム】ロシア軍演習で一触即発

ポピュリスト大統領の思惑

 ドンバス地方を中心としたウクライナ情勢は、今年に入って再びきな臭くなる。2019年12月に独仏を含む4カ国首脳が会談し、ミンスク停戦合意の年内履行で一致していたものの、ウクライナ政府軍と親ロシア派の戦闘は継続。2020年7月に欧州安保協力機構(OSCE)の仲介で停戦を確認しても「焼け石に水」という状態で、バイデン政権発足前後からさらに雲行きが怪しくなった。紛争当事者の双方に、局面転換の思惑があったようだ。

 3月末の米紙ニューヨーク・タイムズの報道によると、ロシア軍は対ウクライナ国境付近で演習を終えた後、その場にとどまり続けた。兵力は推定約4000人。数は次第に膨れ上がり、ウクライナ政府が4月中旬に明らかにしたところでは、ロシアが併合したクリミア半島を含め、集結したロシア軍は8万~11万人と言われた。EUは10万人以上と見積もっている。

 プーチン政権が、ウクライナとその後ろ盾である欧米を威圧しようとしているのは明白だとしても、そこまでする背景には何があるのか。ウクライナのこれまでの動きを見ておこう。

 根本にある問題は、先述のミンスク停戦合意だ。これはドンバス地方で地方選を実施し、親ロシア派に「特別な地位」(高度な自治権)を認めるのが柱。しかし、ウクライナにとっては、分離独立状態に法的根拠を与えて固定化することに他ならない。独仏の働き掛けで合意したものの、歴代のポロシェンコ前政権も、ゼレンスキー政権も、履行には二の足を踏んできた。

 コメディー俳優出身のゼレンスキー大統領は2019年の就任当時、ウクライナで紛争が長期化する中、国民の厭戦(えんせん)気分を背景に、和平、すなわち停戦合意の履行に積極的だった。実際、地方選実施に向けてドイツのシュタインマイヤー元外相(現大統領)が提示していた打開策も受け入れた。

 ところが、親ロシア派の分離独立を認めず「主戦論」を唱える民族派の猛反発に直面。そもそもポピュリズム(大衆迎合主義)的な政治家であり、ウクライナが抱える経済、汚職、紛争といった難問を解決できず、当初7割台だった支持率が2割台に落ち込むと「民族派の人質」(ロシアの識者)となり、自らも失地回復を唱えるようになった。

◆地球コラム バックナンバー◆

地球コラム バックナンバー

新着

会員限定

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ