在宅勤務者の自己負担額を軽減
新型コロナウイルス感染拡大に伴い急速に普及したテレワーク。ドイツでは「ホームオフィス」(Home Office、在宅勤務)と言うことが多い。在宅勤務に関してはコロナ禍前でも自宅と会社の往復にかかる移動時間の減少や静かな環境で集中して働けることが評価されていた。そして、ドイツでも新型コロナの感染が広まり始めた2020年3月からはさらに注目されるようになる。ただ、在宅勤務は感染症から身を守る手段になる一方、自宅の光熱費が増えたり、仕事の効率が落ちないようにインターネット環境を向上させたりする必要があり、その経費を誰が負担するのかといった問題も生じる。現に筆者も夫と共に在宅勤務をしており、ネット回線の速度を上げるため契約内容を変更した。
20年12月、ドイツ政府は同年と21年に在宅勤務をする被雇用者は年間最大600ユーロ(約7万5000円、1ユーロ=125円換算、以下同)を所得税からの還付金として得られることを発表した。確定申告を行えば1日5ユーロ(約625円)、年間最多120日までの在宅勤務日に伴う費用(光熱費や通信費など)が控除対象になるという内容だ。約7万5000円で光熱費、通信費、その他の雑費(印刷費など通常は雇用者が負担するもの)を全て補えるかは個人の年間在宅勤務日数によるだろう。しかし、1日5ユーロという一律料金は低い額ではない上、確定申告のプロセスも「エルスター」という税務署が提供している無料のソフトウエアを利用して在宅勤務日数のみ記入するだけなので、多くの実施者にとってありがたい制度だと思う。
そもそもコロナ禍前のドイツの在宅勤務はどんな状況だったのだろう。在宅勤務をする被雇用者はもともと存在していた。彼らは自宅に仕事部屋がある場合のみ、家賃と光熱費の一部を控除対象にできた。この「仕事部屋」には、(1)独立した居室(2)仕事に必要ない家具や物を置かない(3)仕事以外の用途に併用しない―という厳密な規定が設けられている。ただし、この規定をクリアすれば、自宅の総居住面積をA、仕事部屋の面積をBとした場合、家賃と光熱費のそれぞれB/Aに相当する金額が所得税から控除される。
ドイツの賃貸住宅の家賃は、ミュンヘンの居住面積60~80平方メートルのマンション(築10年未満、2019年調べ)なら1平方メートル当たり平均18.61ユーロ(約2326円)、フランクフルトでは15.53ユーロ(約1941円)といったレベルにある。例えば、ミュンヘンで居住面積80平方メートルの部屋を月額1500ユーロ(約18万7500円)の家賃で借り、4畳半程度の8平方メートルの部屋を仕事専用にしていれば、家賃分だけで年額1800ユーロ(約22万5000円)が還付されることになる。なお、この計算は自宅以外に業務をこなす場所がなく、完全在宅勤務をしていることが前提で、業務の一部を自宅で行っている場合、還付は年間1250ユーロ(約15万6250円)までという制限が設けられている。
仕事部屋の控除と1日5ユーロの在宅勤務控除は併用できず、どちらかを選択しなければならないが、最大600ユーロの上限がある在宅勤務控除に比べ、仕事部屋の控除の方が有利なのは明らかなので、仕事部屋を構えている被雇用者は今後もこの方法で申請するだろう。
加えて新しい制度には小さな落とし穴がある。 政府が新たに控除対象とした1日5ユーロの在宅勤務一律費用は確定申告の「必要雑費」という費目に含まれる。この費目には仕事に必要な経費として例えば交通費、眼鏡、仕事関連の専門書、スキルアップのための講座の受講費などさまざまな費用を算入できる仕組みになっている。ところが、この「必要雑費」にはもともと1000ユーロの控除限度額があるため、在宅勤務とは関係のない費用の算入額が400ユーロを超えてしまうと、年間120日間在宅勤務をしたとしても、最大600ユーロまで認められる在宅勤務費用の控除枠をフルに活用できなくなってしまう。
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