会員限定記事会員限定記事

オウム真理教、よみがえる平成の亡霊

「神聖なもの」の行方

 判決の2週間後。死刑が執行された麻原の遺骨と遺髪について、東京高裁が引き渡しを求めた四女の即時抗告を棄却した。

 麻原は死刑執行の直前に遺体などの引き取り先に四女を指名したとされる。ところが、次女や三女らが「当時、意思疎通が難しい状態となっており、特定の人を指定することはあり得ない」と主張。そこに妻も引き渡しを主張して、三つどもえの争いとなっていた。東京家裁は2020年9月、もっとも親和的だったとして次女に引き渡すとの決定を下し、四女側が不服を申し立てていた。四女側は既に最高裁に特別抗告している。

 遺骨は現在、東京拘置所に保管されている。仏教でもお釈迦(しゃか)様の骨である「仏舎利」は神聖な意味を持ち、卒塔婆や五重塔などは、その仏舎利を収めた場所として崇められる。信者、信奉者にとって崇拝の対象としての骨の存在は絶大である。布教にも大きな影響を与えた。

 同じように麻原の遺骨は神聖なものとして受け止められ、これを手にした人物が教団の後継団体でも大きな求心力と影響力を持つとしてもおかしくはない。

 こうした昨今の状況を黙って見過ごしていいのだろうか。教祖の骨を持った者が後継者を名乗ったら。その後継者が社会に敵対的な態度を取ったなら。かつての反省もなく、被害者賠償を拒否して潤沢な資金を持つ組織。そう連想すると、不安を覚えるのは私だけだろうか。

 3年ごとに更新される観察処分も今年1月で7回目となったが、もはや効果が薄れてきたとさえ言える。平成の大事件が亡霊のように、令和の時代に次なる局面を迎える可能性も否定できない。(文中敬称略)

◇ ◇ ◇

 青沼陽一郎(あおぬま・よういちろう) 作家・ジャーナリスト。1968年長野県生まれ。犯罪・事件や社会事象などをテーマに、精力的にルポルタージュ作品を発表している。著書に「食料植民地ニッポン」「オウム裁判傍笑記」(ともに小学館文庫)、「私が見た21の死刑判決」(文春新書)、「侵略する豚」(小学館)など。映像ドキュメンタリー作品も制作。(2021年3月19日掲載)

新着

会員限定

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ