同性婚が認められないのは婚姻の自由などを保障する憲法に違反するとした初判断が、札幌地裁で示された。同性カップルをめぐっては、東京都渋谷区や同世田谷区が2015年から「結婚に相当する関係」と認め、証明書を発行するなど、同様の動きが全国に広がりつつある。今回の違憲判決は多くの関係者が「最終目標」とする同性婚の制度化への橋頭堡(きょうとうほ)となるのか。この問題に詳しい金沢大学国際基幹教育院の谷口洋幸准教授(国際人権法・ジェンダー法)に寄稿してもらった。
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同性カップルの婚姻を認めず、一切、法的保護を与えていない今の法制度は、一人ひとりが持つ性的魅力を感じる対象(性的指向)に基づく差別に当たる。3月17日、札幌地方裁判所はこのような違憲判決を下した。
裁判所が今の法制度を違憲と断じたことは画期的だ。法解釈のあり方としても極めて論理的で順当な判決であり、反論の余地は少ない。人権や民主主義、三権分立といった国の基本理念や構造に忠実な今回の判決は、司法のあるべき姿の体現とも言える。
判決が何をどのように違憲と判断したかについては、すでに各所で分かりやすい解説が展開されている。内容の詳細はそちらをご覧いただくとして、ここでは、今回の判決がもつ歴史的な意義や今後の影響について考えてみたい。
性的指向に基づく区別は原則違憲
札幌地方裁判所は、性的指向は性別や人種と同じレベルで差別が禁止される事由に該当するとの判断を示し、憲法14条違反を認定した。
性的指向に基づく差別の違法性は、1990年代の裁判でもすでに認められていた。東京都教育委員会が同性愛者の団体の施設利用申請を拒否したことが違法と認定された「府中青年の家事件」だ。以後、国が主導する人権啓発の項目には、今日まで約20年にわたって性的指向が盛り込まれており、自治体の条例や計画にも性的指向に基づく差別や偏見をなくす取り組みが明記されてきた。日本が批准している自由権規約でも、90年代から性的指向に基づく差別を禁止する解釈が確立している。実際、2006年の発足当初から国連人権理事会の理事国を務めている日本は、性的指向に基づく差別の撤廃に向けた国際社会の取り組みで積極的な姿勢を見せてきた。
このような経緯から考えれば、性的指向が法の下の平等を定めた憲法14条の保障対象に含まれることは当然と言える。今回の判決では、性的指向に基づく区別取り扱いは、「真にやむを得ない」場合以外許されないとの審査基準も示された。性的指向が個人の選択によって自由に変更できるものでない以上、性別や人種と同じく、区別取り扱いは違憲が前提となり、よほど必要で不可欠でない限り正当化することはできない、という基準だ。今の日本の法制度は、雇用や労働、社会保障、教育、保健医療、健康、公共サービスなど、あらゆる領域で男女カップル、つまり異性愛であることが前提とされ、同性カップルは蚊帳の外に置かれている。こうした現状は「真にやむを得ない」理由に基づいているのだろうか。法制度はもとより、社会生活全般を見渡した早急な点検が求められる。
満を持しての判決
今回の判決は、同性カップルが性的指向だけを理由に、婚姻という重要な法的利益の一部ですら許されない現状について、憲法違反を認定した。
婚姻や家族に関する法制度が、従来、男女カップルだけを想定してきたのは、なにも日本だけではない。世界共通で見られる歴史的事実だ。89年にデンマークが登録パートナーシップ制度による同性カップルの法的保護に踏み切ると、この制度は日本を含む世界中で紹介され、各国で導入の是非をめぐる議論が始まった。性的指向に基づく差別や偏見の解消に向けた動きに呼応しながら、日本でも2000年代に同性婚やパートナーシップ制度に関する当事者の意識調査や討論が展開され、国会への地道なロビイングも実施されるようになった。10年代にはその動きが次第に社会の関心を集めるようになり、15年に渋谷区と世田谷区で始まったパートナーシップ認定制度はその決定打となった。
15年は同性婚についてもう一つ重要な出来事があった年でもある。7月7日、455人の当事者が日本弁護士連合会(日弁連)に人権救済を申し立てた。札幌地裁の判決より1年以上前の19年7月18日、日弁連は「同性婚を認めないことは、(個人の尊重や幸福追求権、公共の福祉について定めた)憲法13条、14条に反する重大な人権侵害である」との結論を公表している。その直前には、民法改正による同性婚の法制化を掲げた婚姻平等法案も、国会に提出された。
判決で触れられた国民意識の高まりの背後には、このように、今の法制度が同性カップルを排除していることへの地道な異議申し立てがあった。今回の判決は、決して、国に対して厳しい結論を拙速に突き付けたものではない。むしろ、満を持して下されたもので、時宜にかなった手堅い判決だ。
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