会員限定記事会員限定記事

渋野日向子、2020年の「悔しさ」から2021年の飛躍へ もがき、はい上がり迫った快挙

紆余曲折の2020年

 女子ゴルフの渋野日向子にとって2020年は、もがき苦しみ、どん底からはい上がった末に光明が見えた1年だった。新型コロナウイルスの影響で競技環境が一変。自身も驚異的な躍進を遂げた19年とは対照的に、不振が続いた。それでも成績は尻上がり。12月の全米女子オープンでは優勝を争い、単独トップで最終ラウンドへ。結果は、日本勢初となる海外メジャー2勝目の快挙に一歩届かず4位。涙をこらえて「悔しい」を繰り返した。紆余(うよ)曲折の軌跡が、21年の飛躍へとつながるのかもしれない。(時事通信運動部 前田祐貴)

◇ ◇ ◇

 19年はAIG全英女子オープンで日本勢42年ぶりの海外メジャー制覇を遂げ、「スマイリング・シンデレラ」として世界中にその名をとどろかせた。国内ツアーでも4勝。最終戦まで鈴木愛と激しく賞金女王を争うなど、大躍進のシーズンだった。

 20年は当初、2月にタイでの米ツアーで始動するはずだった。しかし、コロナ禍で国内外の大会中止が相次ぎ、照準を合わせていた東京五輪も1年延期に。空いた期間を有効活用し、トレーニングの量を増やしたり、スタンスの幅を狭めるなどのスイング改造にも着手したり。課題としていたアプローチの練習も重ねた。

アイアンショットに苦悩

 ところが、いきなりつまずいた。満を持して迎えた6月下旬の国内ツアー初戦、アース・モンダミン・カップは予選落ち。それでも「米国で戦いたいという思いに、うそをつきたくなかった」と米ツアー本格参戦を見据え、8月から約2カ月間の海外遠征を決めた。だが、結果が出ない。前年覇者として臨んだ全英女子オープンなど英国での2試合でも決勝ラウンドに進めなかった。

 全英女子オープンは前年と異なり、渋野にとって初挑戦だった本場のリンクスコース。強風や深いラフなどに苦戦したのは事実だが、それ以上に嘆いたのはアイアンショットの不振。全英女子では、フェアウエーキープ率が75%だったのに対しパーオン率は50%にとどまった。違和感はアース・モンダミン杯から続いていたといい、「何か怖がっているのか、最後まで振り切れない。ショットに関しては本当にポンコツだった」と肩を落とした。

メジャー覇者の肩書「捨てていい」

 ショットを修正し、メジャー2大会を含む米国での4試合はいずれも決勝ラウンドに進んだものの、優勝争いにはほど遠かった。10月の全米女子プロ選手権を58位で終えると、「こっち(米ツアー)で戦うとしたら、メジャーチャンピオンという言葉を捨てていいと思った。(19年の全英女子で)勝ってはいるけど、私よりレベルが高い人が何百人、何千人いる」。日本にはない芝や難しいコースセッティングに苦戦し、世界の壁を痛感していた。

 帰国後2週間の自主待機を経て、国内ツアーの樋口久子・三菱電機レディースに臨んだ。初日にツアーで自身2度目のホールインワンを達成しながら、2日目に崩れて予選落ち。短いパットを外す場面やアプローチのミスが目立ち、「情けないの一言」と唇をかんだ。快進撃した19年には戻れないと分かっていながら、「比べてしまう自分がいる」と苦悩を明かした。

 そんな渋野だったが、家族らと会話を重ねるうちに気持ちが楽になった。「去年の自分に戻りたいと思っていたけど、戻るという感覚から、またつくり上げていくという捉え方に変わってきた」。失っていたプラス思考を取り戻した。予選落ちのないTOTOジャパン・クラシックは30位。復調の大きなきっかけとなったのは、右足裏に痛みを抱えながら臨んだ翌週の伊藤園レディースだった。

「誕生日」以降は上昇カーブ

 2日目にカットラインがちらつくプレッシャーの中、17番でバンカーショットを1メートルに寄せると、18番では2メートルを沈めてともにパーセーブ。この2ホールで連続ボギーをたたけば、またも予選落ちの窮地だった。これをしのぎ、「いい集中力を発揮できた」と胸をなで下ろした。後日、全米女子オープンで単独トップに立った時、伊藤園2日目の残り2ホールが分岐点だったと明かし「そこで決められたところから、ちょっとずつ変わってきた」。言葉通り、鳴かず飛ばずの成績から一転、上昇カーブを描いていった。

 伊藤園の最終日、11月15日は22歳の誕生日。トーナメント会場でバースデーを迎えられたことに喜びを感じ、スコアを伸ばして23位に。続く大王製紙エリエール・レディースでは、最終日に66をマークして今季初のトップ10入りとなる5位。国内の年内最終戦、JLPGAツアー選手権リコー杯で3位に食い込んだ。

 その時点で2020年について、「19年よりも価値のある一年」と評した。「19年の絶好調の後、やりにくさも感じながらやっていた。そういう経験はしてみないと前に進めない。いろいろな経験をして、また新しい自分のゴルフを見つけていけたら」

新着

会員限定

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ