サッカーの世界から離れること14年余り。日本史上最高の選手とも言われ、欧州でも確かな実績を残した元日本代表の中田英寿さん(44)は今、日本文化の持つ魅力に引かれ、その素晴らしさを伝える活動に取り組んでいる。新たな「世界」で、サッカーと同じように情熱を注げる場所を見つけ、終わりなき旅を歩んでいる。(時事通信運動部・前田悠介)
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2006年6月。ワールドカップ(W杯)ドイツ大会を最後に29歳で現役を引退した中田さんは、その後に世界各地を回る旅に出た。
「サッカーをずっとやってきたので、自分が他にどんなことができるか、どういったことに興味があるか、まずそこを知ることが大事だと思い、世界を旅することにしました」
ところが、約3年をかけて各国を回る道中で、中田さんの関心はその国ではなく日本へと次第に傾いていった。
「いろんな国や地域に行くたびに、日本について非常に多くの質問を受けました。しかし、学生の頃はサッカー一筋で、さらには21歳でイタリアに行ってしまったので、なかなか日本を回ったりする時間もなければ、日本文化を勉強する時間もなく、日本について答えられることがありませんでした。この先、どんな仕事をするにしても海外に行けば、必ず日本のことを聞かれる。だったら、何よりもまず日本のことをきちんと勉強し伝えることができるようになるのが、日本人である自分にとって一番重要なことだと思い、日本に戻って来たのが09年です」
日本のことについて詳しく知らないという経験は、中田さんだけではないだろう。自分の出身地のことですら、意外に知らない人は多いのではないか。
現地を訪れ、五感で感じる
09年。車1台で沖縄から北海道を巡る日本一周の旅が始まった。中田さんは現地を自ら訪れ、現地の農家や職人と会って話し、体験、体感することにこだわった。それは、やがて「にほん」の「ほんもの」を伝える旅マガジン「にほんもの」を通して情報を発信することにつながっていった。
「インターネットで出てくる情報は、海外の方でも簡単に(情報を)調べることができます。逆に日本人でも実は知らないような情報やその土地に根付いた文化、そこに行かなければ分からない情報が大事なんじゃないかと思いました。なぜかというと、文化とはその地域の生活に密接に結びついているので、そこに行かなければ分からないと思ったからです」
「現場に行く重要性というのは、言葉に表せないその場所、その人の雰囲気を感じ取り、実際に彼らの仕事を見、体験すること。ただ見ているだけだと、技術がすごい人ほど簡単そうに見えるんですが、自分が体験することによって、その難しさ、大変さがよく分かる。それが非常に大事なことで、本当にそこに行かなければ絶対に分からない情報なんですね。重要なのは五感で情報を感じ取るということでしょうね」
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