プロ野球の日本ハムが誇ってきた「守り勝つ野球」が揺らいでいる。広い札幌ドームを本拠地球場としているからこそ、培ってきた強みでもある。だが、2016年のリーグ優勝、日本一を最後に、過去4年間は3位が1度、5位が3度と低迷。背景の一つは、自慢の守備力が低下していることだろう。20年シーズンはリーグ最多の75失策。勝負どころで守りのもろさが目立った。かつての鉄壁な守備を取り戻せるか。一朝一夕にはクリアできない課題だ。そんな状況下、内野の要となる「二遊間」のレギュラーを不動にしようと、若手が目の色を変えている。指導や助言をしつつ、選手自身が意識改革する姿勢を求めているのは、名手で鳴らした金子誠野手総合コーチ。堅守復活へのヒントを探った。(時事通信社 藤井隆宏)
ライバル西武を引き合いに
昨年3月。オープン戦の全日程を終えた後、金子コーチがポツリと漏らした。日本ハム一筋の現役時代、二塁手と遊撃手の両方でゴールデングラブ賞を受賞。約16年にわたりチームの二遊間を支えた。話題はライバル球団、西武の守備。「ライオンズはすごく打つイメージがあるけど、あそこの二遊間はすごいからね。あと数年したら、すごく投手が育つと思う」。語り口に、どこか昔を懐かしみつつ、裏返しとして日本ハムの二遊間へのもどかしさが垣間見えた。
パ・リーグ屈指の守備力と評される西武の二遊間、ショートの源田壮亮とセカンドを守る外崎修汰の名を挙げて「どんなに荒れた試合でも、取れるアウトはしっかり取っている。すごく締まっているから、それによって投手が育ってくる」。往年の西武で鉄壁の守りだった遊撃手・松井稼頭央(現西武2軍監督)と二塁手・高木浩之の名コンビに比肩するという。金子コーチは松井と同学年で、それぞれ常総学院高(茨城)、PL学園高(大阪)からドラフト3位でプロ入り。現役生活が重なる。
投手を育てる野手の「自信」
2020年オフ、入団から13年連続50試合以上登板し、歴代最多の通算358ホールドを誇る35歳のセットアッパー、宮西尚生が契約更改後、自身の若い頃を振り返った。その当時、登板時のバックは頼もしかった。遊撃に金子、二塁には06年から5年連続ゴールデングラブ賞の田中賢介。「金子さんや賢介さん。内野からの強い視線のおかげで、成長することができた」。ピンチの際にマウンドに内野手が集まる場面を例に挙げ、こう話した。「守備が良くなって、野手が自信を持つと、その視線が投手に向けられる。それまでしてくれていた『頑張れ』とか、そういう優しい声掛けが、檄(げき)に変わる可能性がある」
金子コーチ自身も以前は内野手として、マウンドにいる宮西ら当時の若手投手に対し「腐ったピッチングをしていたら、後ろから(言葉で)蹴っ飛ばしたからね。『お前らの背中を見て俺らは守っているんだよ』って」と、あえて厳しく突き刺すような表現で背中を押していたという。宮西は「そういう声が最近ない」と指摘し、その上で「そんな風に言えるぐらいの自信を持って守備をしている野手がいれば、投手も成長すると思う」と願望を口にした。
先輩から後輩へ、厳しくも優しくも
長年、チームの4番に座っているリーグ屈指の強打者、中田翔は一塁手でゴールデングラブ賞が4度。いぶし銀の堅守でもある。中田もかつては、ともに現役だった金子や稲葉篤紀(侍ジャパン監督)から厳しい言葉を浴びていたという。「挟殺プレーでランナーの追い方からすべて教わったし、『その追い方、違うだろ』とか『そのタッチの仕方は違うだろ。もし(走者の)肘が当たってボールをはじいたらどうするんだ、お前』みたいな。そういうところから、一から教えてもらった」
今は二塁手の渡辺諒や同じ一塁を守る清宮幸太郎らに助言する立場になった。「でも、そんな厳しくは言わない」と中田。「というよりも、性格かな。俺、こう見えて優しいからね」と笑う。同じ守備位置の清宮に対しても、場面に応じたグラブの出し方、併殺を狙う際に投げる球の回転などをかんで含めるように伝え、成長を促してきた。
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