昨年10月、試合中のプレーで左肩を痛めて離脱。全試合出場はならなかったが、106試合で132安打、打率3割2分8厘、20本塁打、69打点。開幕前、ラミレス監督は「120試合でも打率2割8分~2割9分を打つ能力があるし、15~20本塁打、打点は70、もしかしたら80くらい」と見込んでいた。その通り、それ以上の数字が並び「相当なプレッシャーを感じてプレーしていたと思う。それがあってもやってくれると信じていたが、まさか首位打者までとは思っていなかった」。期待に応えたまな弟子に、目を細めた。
コロナ禍に伴いイレギュラーな形にはなったが、個人としては充実したシーズンを終えた。ただ、チームは2年ぶりのBクラスで4位。昨年12月の契約更改で、推定年俸が4600万円増の7000万円と大幅にアップしながらも、主将の責任感をにじませた。「1年間、右も左も分からず、それでも全力で駆け抜けた。だが、9月初めの巨人との3連戦で、キャプテンとしてチームにアクションを起こせなかったことをすごく後悔している」
「迷っても、まずは行動したい」
2020年のDeNAは、強打者オースティンの加入や投手陣の層の厚さなどから開幕前に優勝候補にも挙げられた。首位の巨人を5.5ゲーム差の2位で追い、迎えた9月1日からの直接対決3連戦。優勝戦線に踏みとどまるどころか、3連敗を喫してしまった。その3戦目は二回に10点を失うなどして大敗した。
意気消沈したのか、以降はずるずると後退。「そこで僕が行動を起こして、3連敗の結果が変わったかどうかは分からない。でも、これからは迷ったら、まずは全部行動に移したい。周りの方の力も借りながら、強く前に進んでいきたい」。勝負どころで主将らしさが発揮できなかった悔いを良薬にする。
先輩が積極的にバックアップ
主将だった時の筒香は、ここぞという場面でミーティングを開き、チームを鼓舞した。19~20年の選手会長、石田はそんな筒香を間近で見てきた。主将になって1年目の佐野には「キャプテンだからといって、何かを変えることはしなくていい。伸び伸びとやってくれれば」と伝えていたという。
その上で、「チームがこういう結果(Bクラス)に終わったのは事実。このままじゃ駄目というのは、佐野自身が第一に考えていると思う。一人で考えないように、背中を押していく立場として、いろいろ話し合いをしてあげたい」。石田は法大時代、佐野の2学年上。14年に東京六大学の秋季リーグ戦で投打の対戦もあった。今はチームメートで先輩になる。選手会長は交代したが、今後も積極的にバックアップしていく意向だ。
元主将のうれしい提案
シーズン終了後、うれしい提案があった。チームの親会社がDeNAになって最初の主将を務めた石川雄洋選手が、球団に申し入れた。自身が19年までつけていた背番号7を「佐野につけてほしい」と。それを受けた球団から提示された。佐野は1桁の背番号に憧れがあったという。「本当にうれしく、光栄。石川さんの思いも背負って頑張りたい」。石川は横浜とDeNAで通算1003安打の実績を残し、20年限りで退団した。
背番号7はかつて、「マシンガン打線」の中心だった鈴木尚典(現BCリーグ神奈川監督)がつけていた。鈴木は1997年に背番号「51」で初の首位打者。「7」を背負った翌98年にも再び首位打者となり、チームの38年ぶりとなるリーグ優勝と日本一に大きく貢献。西武を破った日本シリーズでは最高殊勲選手に選ばれた。
優勝と連続首位打者に挑戦
当時の鈴木と背番号変更の経緯が似ている佐野。2021年は、セ・リーグで鈴木以来となる2年連続首位打者の期待がかかる。「数字だとか、そういうのは後からついてくるもの」と気負いはないが、打者にとって最高レベルの栄誉となるこのタイトルの連続獲得に挑戦できるのは、リーグでただ一人だ。さらに、本人のこだわりが強いのが打点。「本塁打を気にし過ぎると自分の打撃ができなくなるというのが、ここまでの野球人生で感じているところ。チームの勝利に一番貢献できるのは打点。本塁打よりは打点を稼いで、というのは意識していきたい」
本拠地の横浜スタジアムでは、佐野がお立ち台に呼ばれて「あしたもホームランを期待していいですか」との問いに「期待しないでくださーい」と答えるやりとりが、おなじみになった。ただし、昨年12月に開かれたファン感謝イベントでは、最後のあいさつでリーグ優勝と日本一について、今度は「期待してください」と力強く誓った。21年シーズン、DeNAは三浦大輔監督が率いる新体制で臨む。新監督の下、新しい背番号のキャプテンが、セ・リーグで最も遠ざかっているペナント奪還に向けてチームを引っ張る。
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佐野 恵太(さの・けいた) 岡山県出身。広島・広陵高、明大を経てドラフト9位で2017年にDeNA入団。代打の切り札として頭角を現し、主将と4番を務めた20年は自身初の規定打席に到達。打率3割2分8厘で初タイトルとなる首位打者に輝いた。プロ4年間で通算286試合に出場し、打率2割9分6厘、30本塁打、117打点。178センチ、88キロ。右投げ左打ち。1994年11月28日生まれ。(2021年1月7日掲載)
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