簡易シェルターをつくろうと、雪面に穴を掘る大学生、手前は遭難者=富士山の標高2650メートル付近[川口さん提供]【時事通信社】
元旦の富士山登山で遭難者を救助したとして、二人の大学生がこのほど、静岡県警御殿場署から感謝状を贈られた。冬の登山は十分な装備や準備が必要だが、救助された男性は軽装備。一歩間違えれば滑落など最悪のケースも考えられたが、男性は無事保護された。
お手柄の二人はともに横浜市出身の大学生、川口達也さん(22)と萩谷将成さん(21)。山岳用品店でアルバイトをしている登山仲間だ。
二人が挙動の不審な登山者を見つけたのは1月1日午前4時45分ごろ、富士山御殿場ルートの6合目、標高約2820メートル付近だった。山頂で「初日の出」を見ようと登った二人だったが、天候不順で断念し、下山の途中だった。真っ暗闇の中、ヘッドライトが揺れ、足元のふらつく一人の男性を発見。当時、気温は氷点下20度前後、風速20メートルの突風も吹いた。萩谷さんが心配して声を掛けると、「大丈夫」と返答があったものの、ピッケルを持たず、ヘルメットも着用していない。スキー用手袋を着けていたが、靴にアイゼンは付いておらず、スノーブーツにチェーンスパイクを付けている程度だった。あまりの軽装備に二人は驚き、「このまま見過ごしたら大変なことになる」と思い、一緒に山を降りることにした。
二人は男性をロープでつなぐと、川口さんがダウンジャケットの上着を、萩谷さんがピッケルを貸した。上からも下からも突風が吹き、1時間で約170メートルしか斜面を下れない。身をかがめる「耐風姿勢」を取らなければ飛ばされる恐れもあった。萩谷さんが「爪先とか指先とか冷たいところはないですか」と問うと、男性は「両足指先の感覚がないです」。
二人は自力での下山は無理と判断。午前5時50分ごろ、警察に救助要請し、標高2650メートル付近で助けを待った。川口さんの救助記録によると、氷点下10度、風速は10~20メートル。男性を長い時間、冷たい風にさらさないよう、固く凍った雪面に穴を掘り、スノーブロックで風をさえぎる「簡易シェルター」もつくった。午前7時半ごろ、冷たい強風に長くさらされた影響で、川口さん、萩谷さんの体温も低下して軽度の凍傷が見られ、疲労を感じるようになってきたという。
午前9時半ごろ、救助のヘリコプターが見えた。ほっとした二人だったが、ヘリは強風のため待機場所に近寄れなかった。動画には「きついか」「寄れないか」と無念そうな二人の声が記録されている。
午前11時20分、麓から登ってきた警察の救助隊が到着。発見から約6時間半後だった。この男性は34歳の会社員で「初日の出」を見ようと富士山に登ったそうだ。
感謝状を授与された川口達也さん(左)と萩谷将成さん(右)。中央は静岡県警御殿場署の河合竜司署長=2月4日、同署[川口さん提供]【時事通信社】
2月4日、二人は御殿場警察署の河合竜司署長から感謝状を贈られた。河合署長は取材に対し「目に力がある、すがすがしい青年たちに会えて気持ち良かった。彼らには『利他の精神』があったと思う。本当に命懸けの素晴らしい救助活動で、正しい知識と技能を持った彼らがいたからこそ、人の命を救うことができた」と強調した。
川口さんは取材に「自分としては当たり前のことをしただけで、困った人を見たら助けるのは当たり前のことだと思う。それで、こんなに感謝され、表彰されたのは光栄。これからも困った人がいたら助けたい」と話した。萩谷さんは「遭難者を見つけた時、われわれの手に負えない状況ではなく、フォローできる範囲だったので、運が良かった。私はピッケルを貸したが、耐風姿勢を取ればアイゼンだけで降りられると判断した。助けられるときは助けないと。見捨てるわけにはいかなかった」と振り返った。
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