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東京六大学、百花繚乱のエースたち 多彩な好投手がいざプロへ

左腕、右腕に下手投げ

 神宮のマウンドをステップにプロ野球界へ―。2020年秋のドラフト会議で、東京六大学リーグに属している6校のうち東大を除く5校のエースが指名を受けた。早大の早川隆久(はやかわ・たかひさ)投手は楽天の1位、慶大の木沢尚文(きざわ・なおふみ)投手はヤクルトの1位、明大の入江大生(いりえ・たいせい)投手はDeNAの1位、法大の鈴木昭汰(すずき・しょうた)投手はロッテの1位、そして立大の中川颯(なかがわ・はやて)投手がオリックスの4位。法大からは高田孝一(たかだ・こういち)投手も楽天に2位で指名された。東京六大学の投手が各校からバランス良く名を連ねるのは異例だ。百花繚乱(りょうらん)のエースたちは21年以降、日本球界最高峰の舞台で再び熱い火花を散らす。(時事通信運動部 嶋岡蒼、浅野光青、大戸琳太郎)

◇ ◇ ◇

 1965年にスタートしたドラフトで、東京六大学から4人の1位指名は68年、77年、82年にもあり、入団しなかったケースを含め、いずれも法大勢が3人を占めた。68年には「法大三羽ガラス」と呼ばれた田淵幸一捕手が阪神、山本浩司(後に浩二)外野手が広島、富田勝内野手が南海に、さらに明大の星野仙一投手が中日にそれぞれ1位で指名された。

 2020年は多彩な好投手がそろった。ともに左腕の早川と鈴木は、高校時代に甲子園で活躍。早川は木更津総合高(千葉)で3年時に春夏ともベスト8。鈴木も常総学院高(茨城)で2年春と3年夏に8強入りした。慶応高(神奈川)から慶大に進んだ木沢と、作新学院高(栃木)で夏の甲子園優勝を経験した入江は右腕。入江は高校時代、エースの今井達也(現西武)を擁したチームの中心打者で救援投手だった。中川は右の下手投げ。桐光学園高(神奈川)から立大に進み、早々に主戦投手を務めた。

コロナ下で大学ラストイヤー

 新型コロナウイルスの影響で、20年の東京六大学リーグは変則的に開催された。春季リーグ戦は、約4カ月遅れて真夏の8月に1回戦総当たり(各校5試合)の短期決戦で実施。法大が優勝し、同じ4勝1敗ながら法大との対戦で敗れた慶大が2位、早大と立大が3位、以下は明大、東大の順だった。

 秋季リーグ戦は2回戦総当たり(各校10試合)に拡大。本来の2勝先取方式の勝ち点制ではなく、勝てば1ポイント、引き分けで0.5ポイント、負ければポイントなしとして、ポイントの総数を争った。秋を制したのは8.5ポイントの早大。優勝の行方は最終週で戦う早慶2校に絞られ、早大が連勝した。7ポイントで並んだ慶大と明大が2位、4位以下は立大、法大、東大となった。早大の10季ぶり制覇に大きく貢献した早川は「今年は投手のレベルが高かった」。各校のエースたちにとって、悲喜こもごもの大学ラストイヤーとなった。

◆木沢尚文 先発に救援にフル回転

 木沢は最速155キロの速球と鋭く落ちるスプリットを投げる。慶大では2年から徐々に登板を重ね、4年になってエースに。真夏の春季リーグ、立大戦でスプリットがさえて16奪三振の力投。今秋は明大戦で入江と投げ合い、互いに譲らず引き分け。法大戦では先発、救援と連投し、大黒柱の働きを見せた。

 迎えた早大戦。慶大は2試合で1勝でもすれば優勝だった。1回戦で先発し、早川との投げ合いに。1-1の七回、走者を1人置いて8番の左打者、蛭間(2年、浦和学院)に甘く入ったスプリットを左翼席に運ばれた。7回3失点で降板。先発の役割は果たしながらも「きょう(優勝を)決めたかった。打たれてしまって申し訳ない」。試合後は反省の弁を続けた上で、「やり返すチャンスがある」と救援での連投も辞さない覚悟を口にした。

悔しさバネに「ただでは終わらない」

 2回戦。念願をかなえる絶好の機会が巡ってきた。2-1の八回から登板。この回を難なく抑え、九回も2死。「あと1人」だ。ここで7番の熊田(1年、東邦)に左前打を許す。次打者は、前日に手痛い一発を浴びた蛭間。伝統の早慶決戦を制しての優勝に手が届きかけている。堀井監督が断を下した。交代。左腕の生井(2年、慶応)をマウンドに送った。その初球を捉えた蛭間の打球がバックスクリーンへ。慶大ナインもベンチも凍てついた、まさかの逆転2ランだった。

 木沢は試合後、涙が止まらなかった。「自分たちの代で優勝をと思ってきたが、最後に負けてしまって申し訳ない」。高校の後輩でもある生井には「お前の責任じゃないよ」とベンチで伝えた。「たくさんうれしい思いもしたし、それと同じくらい苦しい思いもした」と振り返る神宮のマウンド。最後に味わった苦い経験と悔しさをバネに、「ただでは終わらないぞ、という気持ちで野球を続けていきたい」。今度はプロで本拠地となる神宮での飛躍を誓った。

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