新谷はレース後の記者会見で、同学年の横田コーチを「親のような存在」と表現した。「日頃から私の自己中心的な発言に全て耐えてもらっていて、精神的にも苦痛を浴びせているような感じはするけど、本当に大きな心で全部受け止めてくれる。いい意味で甘えられる。結果が出なければ絶対に横田さんのせいにしてやろうと思ってスタートしました」。冗談めかして笑った。それを隣で聞きながらうなずく横田コーチは、うれしそうだった。
昨秋の世界選手権(ドーハ)で11位に終わってから、練習メニューは全て横田コーチが考えるようになった。日本選手権の前夜を振り返り、「あんまり寝られなかった」と打ち明ける。「メニューを書くのはそんなに難しい話ではない。彼女が100%以上の力で取り組み、完璧にこなしてくれた。これで結果が出なかったら本当に自分のせいだという気持ちでいた。全て彼女の努力の結果です」。スタートラインに立つまで、何度も「大丈夫」と声を掛け続け、一緒に戦い抜いた。
体づくりと栄養面のサポートも
新谷はもう一人ではない。体づくりはマロン・アジィズ航太コーチの指導を受けてウエートトレーニングに取り組み、栄養面ではサポート契約を結んでいる大手食品メーカー、明治のアドバイスが基盤だ。周囲に心を開いて頼る。それを覚え、走ることに集中できるようになった。潜在能力が引き出され、才能はさらに大きく花開いている。
「一人でも平気だと思っていたし、それが当たり前だと思っていた。それを分散することで、これだけ気持ち的に軽く走れるんだと感じた。私はメンタルが弱いので、焦りとなってレースに出ると自分の走りができないところに影響してしまう。カバーしてくれるための信頼、信用があるのとないのでは、本当に大きな違いだと思う」
アフリカ勢をギャフンと
1月にハーフマラソンで日本新。9月には5000メートルで日本歴代2位のタイムをマークするなど、躍進の1年となった。来年は5000メートルでも日本新を狙い、同種目の東京五輪代表を目指す。そして、五輪後にはフルマラソン挑戦も視野に入れ、「後半のスピード変化にも対応できるような脚をつくる意味で、ハーフマラソン、マラソンにも目を向けていきたい」と意欲的に話す。
1万メートルの世界記録は、アルマズ・アヤナ(エチオピア)が16年リオデジャネイロ五輪でマークした29分17秒45。新谷は本気でそこを目指している。「世界は私より300メートル、へたしたら1周差をつけられるところにいる。無理だと思われがちですが、私はどうしてもアフリカ勢をギャフンと言わせたい。日本人でもやれることを証明したい」
13年世界選手権(モスクワ)の1万メートルで5位に入賞。それから紆余(うよ)曲折を経て、さらなる進化を遂げた。日本記録更新に満足することなく、飽くなき挑戦を続ける。大切にしている言葉「報恩謝徳」を胸に秘めて。(2020年12月21日掲載)
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