「柔よく剛を制す」に挑戦―。体重無差別で争う柔道の全日本選手権が26日に男子、27日に女子の順で東京・講道館を舞台に行われる。新型コロナウイルスの影響で本来の4月開催が延期。無観客での実施となる。大会を盛り上げそうなのが、男子60キロ級の永山竜樹(ながやま・りゅうじゅ)と女子48キロ級の角田夏実(つのだ・なつみ)=ともに了徳寺大職=だ。東京五輪代表の補欠になっている最軽量級の2人が、伝統のある大会に乗り込む。(時事通信運動部 岩尾哲大)
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全日本選手権は各地区予選を突破した選手の他に、例年は前回の決勝進出者や前年の五輪、世界選手権の各階級金メダリストらが推薦選手として出場することが可能だった。今年の大会に向けてはその対象を広げ、東京五輪の代表や補欠、2019年11月のグランドスラム大阪大会各階級優勝者も認められることになった。
24歳の永山は18、19年の世界選手権で銅メダルを獲得。他の国際大会で優勝を重ね、世界ランキング1位に立つ。仮に予定通り4月に全日本選手権が開催され、自身が五輪代表に選ばれていたとしても、出場するつもりだったという。「出られるなら、どんな状況でも出たいと思っていた。小さい時から大きい選手に勝ちたいと思って、ずっと柔道をやってきた。無差別で勝つというのはすごく自分にとって魅力的なものだと思う」。思い入れは強い。
愛知・大成高3年だった14年に、初めて全日本選手権を会場の日本武道館で観戦。前年の73キロ級世界王者として出場した大野将平(旭化成)が、当時東海大4年で初優勝した王子谷剛志(同)に向かっていった試合や、90キロ級の吉田優也(現旭化成監督)が巨漢選手に体落としで一本勝ちした場面を見た。「ここで試合をしたいという気持ちがすごく強くなった」
真っ向勝負を貫く
東京五輪の代表争いでは、16年リオデジャネイロ五輪銅メダリストで17年から世界選手権を連覇した高藤直寿(パーク24)と競り合った末、今年2月に高藤の代表が決まった。精神的な落ち込みは大きかったが、その直後にコロナの感染拡大が本格化。柔道の稽古さえできない時期が続いた。「正直に言うと、メンタル的にもきつかった。ただ、心も体も休めてリフレッシュする時間になった」。今は母校の東海大を中心に重量級の選手とも稽古しながら、全日本選手権に備えている。
「恐怖心はない」。きっぱりと、そう言う。意識するのは真っ向勝負。「小さい選手は動いて逃げながらではないが、そういう柔道をするイメージがあると思う。自分はそういう柔道を今まで練習してきていない。投げにいく柔道、一本を取りにいく柔道を誰が相手でも貫いてやりたい」。多彩な技を持つ中でも一番の魅力は左右から繰り出せる背負い投げ。「勝つことが第一だが、タイミングが合えば担ぎ技で一本を取りたい」と、その瞬間を狙う。
自分だけのメッセージに
身長156センチ。小学生の頃から小柄だった。出身地、北海道の大会で「いつも2番だった」。体格の違いもあり、勝てない選手が1人いたからだ。小学生の大会は階級が細分化されておらず、体の小さい子が勝ち上がれずにくじけてしまう一因になりやすいという声もある。
「大きい選手に勝てないと、柔道が嫌になる子も多いと思う。自分が一つでも多く勝つことで、勇気や希望を与えられたら、すごくいいなと思う。周りにどれだけ無謀な挑戦と思われても、自分を信じて戦って勝てることを証明できれば、いろんな人の心に刺さるのかな」。永山にしか発することができないメッセージを届けるつもりだ。
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