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保護者が認可保育園を運営 待機児童解消に向けたドイツの取り組み

町田文(フリーライター/ドイツ在住)

12の保育園に申し込んだが…
 2018年2月ミュンヘン。生後3週間の赤ん坊を抱えて私は保育園の開放日に参加した。希望する入園時期は1年後。大げさに思われるかもしれないが、わが子を待機児童にしないため、私は12の保育園に申し込んだ。そのうち、6~7の施設は入園希望者が参加できる開放日に直接申し込みをし、残りはオンライン登録システムを利用したり、個人的なメールを書いたりして応募した。結果、申し込んだ8カ所の公立保育園からの連絡は一切なく、1カ所の私立保育園と3カ所申し込んだ「エルテルンイニチアティーヴェ」(Elterninitiative。直訳は「両親のイニシアチブ」)と呼ばれる認可保育園のうち1カ所から良い知らせを受けた。

 このような経験をするのは私だけではない。日本同様、ドイツの待機児童問題は深刻だ。20年上半期では34万2千人(3歳未満)の子供の預け先が足りていない事態となっている(ドイツ経済研究所調べ)。特に待機児童問題は大都市ですさまじく、保育士不足、開設地不足、地方から都市部への移住による人口増加、さらには幼児保育へのニーズの増加が拍車を掛けている。私立保育園は月々最高1300ユーロ(約16万円。1ユーロ=125円で計算。以下同じ)の保育料がかかるため、多くの家族にとって月200ユーロ(約2万5000円)程度の公立保育園の代わりにならない。

 私はもうすぐ3歳になる娘を「ドラッヘンアイ」という名のエルテルンイニチアティーヴェに通わせている。これは保護者が運営している保育園で、「公益法人協会」という組織が施設の運営主体となっている。自治体が認可している施設なのでバイエルン州とミュンヘン市からの助成金対象となり、公立保育園並みの料金で子供を預けることが可能だ。

 保護者が保育園を運営するとはどういうことなのか。無論、運営に携わる保護者自身が保育士資格を持っているわけではない。保護者は公益法人協会の協会員になり、保育以外の業務を担当する。協会員の構成は企業に似ていて、協会長、副協会長、財務担当、人事担当などの幹部のほか、お買い物係、イベント係、建物管理係などを担当する保護者もいる。ただし、助成金と保護者が支払う協会員費(保育料に相当)で全ての経費を賄うことはできないため、保護者は無報酬で活動するのが前提だ。

 保護者に求められる労働時間は業務と施設によって異なる。ドラッヘンアイで私が夫と共に費やす時間は年に32時間程度。それが幹部になると平均週5時間と大幅に増える。この時間には2カ月おきに行われる全協会員と保育士との集会は含まれていない。肝心の保育士は人事担当が募集し、公立保育園の従業員と同等の給与条件で雇っている。

 エルテルンイニチアティーヴェはドイツ特有の認可保育園であり、1967~68年に初めて旧西ドイツのフランクフルトとベルリンで設立された。当時は待機児童問題解決のためだけでなく、公立保育園にはなかった「子供の自発性を伸ばす」という教育コンセプトを求める保育士の声も影響した。今では保育園と小学生向けの学童保育所を合わせて約7500校のエルテルンイニチアティーヴェがドイツ全土に存在する(連邦労働共同体エルテルンイニチアティーヴェ調べ)。

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