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戦後保守政治の裏側12 歴史にも教科書にもない未知なる危機 「民間臨調報告書」から読み解く新型コロナ対策

子どもたち世代への未知なる危機の影

 10月にIMF(国際通貨基金)が発表した各国の2020年の政府債務の対GDP比は、コロナ危機への対応によって、軒並み上昇することとなった。日本は266%に達するという。米国が131%、ユーロ圏が101%、中国は61%であり、日本の政府債務が突出していることが分かる。

 「ここまで大規模な国債増発となれば、受給の緩みへの警戒感から利回りが反発してもおかしくない」(ニッセイ基礎研究所・上野剛志上席エコノミスト)と警戒する専門家は多い。しかし、長期金利(10年国債利回り)は、実際は、コロナ拡大前と大差ない水準に留まっている。なぜなのか。

 「その主因は、言うまでもなく日銀の存在だ」(同前)と指摘されるように、日銀は、今年4月に、国債を制限なく購入することを決めた。これまで保有残高の増加額は年間約80兆円をめどとしていたが、この上限を撤廃する方針を決めた。もちろん、長期金利の上昇を抑えるためだ。日銀が国債の購入額を増やして、世の中に出回る国債量を減らせば、国債の価値下落を抑制し、金利高騰をコントロールすることができるというわけだ。

 しかし、これでは日銀が、直接、国債を引き受けていないにせよ、事実上の「財政ファイナンス」だという批判が上がっている。この批判が的確だとすれば、国の放漫財政を許し、日銀の信用を貶め、いずれハイパーインフレーションが生じて、社会が大混乱する可能性があるわけで、これまで「禁じ手」とされてきた。

 この点について、日銀の黒田東彦総裁は、「(政府と日銀が)それぞれ独立の立場で政策を決め、実行していることと何ら矛盾するものではない」(6月16日会見)、「経済を下支えして、物価の安定という日本銀行の使命を果たすために行っており、何か政府の財政ファイナンスをしようという話ではありません」(9月17日会見)と説明している。

 つまり、政府の財政上の指示ではなく、金融政策として日銀の主体的な判断で国債を買うのだから「財政ファイナンス」ではないという論理だ。

 そうはいっても、「政府が空前の財政支出を行うときに、中央銀行が無制限に国債を買うというのは、普通の言語感覚では、財政ファイナンスそのものであるようにも思える」(みずほ総研・門間一夫エグゼクティブエコノミスト)という警戒感は拭い切れないだろう。

 現状では、日銀による異次元の金融政策の副作用は回避されているように見える。ハイパーインフレも、財政破綻も今のところ現実味がない。しかしながら、これだけ政府が債務を抱え、出口の見えない異次元金融緩和が続くという、我々が、歴史にも経済の教科書にもない、未知の世界に突入していることは確実だ。

 ここに弊害があるとすれば、それによってもたらされる混乱を、次の世代が背負うことである。子どもたちの時代を「死にはしないが、死ぬほどつらい」ものにしてはいけない。

 「現在の『雇用の維持と事業の継続』によって『安心の気持ち』を持つために、将来世代に重い負担を課すほどに巨額の財政措置を講じることは本当に正しいことなのだろうか」

 この民間臨調の疑問の声は、政府にだけではなく、我々国民全員にも投げ掛けられている。【時事通信社「地方行政」2020年11月12日号より】

 菊池正史(きくち・まさし)日本テレビ経済部長。1968年生まれ。慶應義塾大大学院修了後、93年日本テレビ入社、 政治部に配属。旧社会党、自民党などを担当し、2005年から総理官邸クラブキャップ。11年から報道番組プロデューサー等を経て現在は経済部長。著書に「官房長官を見れば政権の実力がわかる」(PHP研究所)、「安倍晋三『保守』の 正体」(文藝春秋)などがある。

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