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ラグビーW杯のリスク管理、経験を東京五輪へ W杯組織委企画局長が語る

2大リスクは地震と台風

 ラグビーのワールドカップ(W杯)日本大会から1年余り。アジア初開催のW杯で地元日本が史上初の8強入りを果たし、ラグビー熱が一気に高まったのは記憶に新しい。大会組織委員会の企画局長を務めた内田南さんが、時事通信のインタビューに応じた。日本代表の歴史的な活躍だけでなく、運営面での評価も高かった日本大会。ビッグイベント運営に不可欠なリスク管理や、多岐にわたる利害関係者間の調整をめぐる難しさなどを聞いた。(時事通信運動部 山下昭人)

◇ ◇ ◇

 内田さんはW杯が開催される5年以上前から組織委員会で働いた古参メンバーの一人。財務やプロジェクト管理、国際統括団体ワールドラグビーとの折衝などに尽力してきた。企画局にとって大きな仕事の一つが、大会時のリスク管理。開催期間中に起こりうるトラブルを5年前の段階から精査し、対応策を検討した。

 「地震と台風が2大地政学的リスクで、雷も。人為的にはテロもある。放送事故が起きないようにする。あとはサイバーアタックが起きたらどうするか。それくらいが大きなリスクとして考えられました。もし起きた場合、誰が誰に報告を集めて、誰がディシジョンメイキング(意思決定)をして、どうコミュニケーションするのかという計画をつくっておりました。『緊急時対応計画』として文書化し、大会前に組織全体で何度も読み合わせをしました。自治体、警察、スポーツ庁にも渡しましたかね。こういう対応でいいよねと回覧し、これだと困る(とやり取りをする)、それが一番重要。書くこと自体は結構当たり前のことを書くんですね。どのタイミングで誰とコミュニケーションをするのか、という話を事前にしっかり握っておくことが重要です」

 大会期間中、最大の危機だったのが各地に大きな被害をもたらした台風19号への対応だ。台風接近に伴い、昨年10月12日と13日に組まれていた3試合は中止を決めた。13日の日本-スコットランド戦など3試合は最終的に開催に踏み切ったが、難しい判断を迫られた。

 「ワールドラグビーは初期の段階では試合をやりたがった。われわれからすると、予選プールはできなかったら中止(と決まっていた)じゃないの、という話。最終的にワールドラグビーはもろもろ考えて(3試合を)中止しようと判断した。一方である自治体はやりたがったし、ある自治体は中止にしたかったみたいな、いろんな思惑が出て、なかなかベクトルが一つにならない。そういうことはやっぱりありましたね」

 「台風が絶対来るということを前提に計画していたが、最後の予選プールのフィナーレが日本-スコットランド戦という形で準備をしていた時に、ど真ん中に過去最大級の台風が突入してくることは誰も想定していない。想定以上に難しい状況が発生し、判断においてはそれぞれベクトルが若干違ったなというところかなと思っています」

1年半かけて根回し

 現実的に可能性は少ないと考えていたが、無観客で試合を開催しなければならないケースにも大会前から備えていたという。

 「唯一想定していたケースというのは、ある会場が使えなくなってしまうこと。局地的な地震で会場が使えなくなっちゃいましたというような話が、大会直前に起きた場合。バックアップ会場という考え方を持っておりまして、この試合が駄目ならここでやろうという計画をつくっていたんですね。この会場でできなかった場合はここに移しますけど、無観客ならいいですよねと、そういう根回しは1年半かけてやっていました」

 「一応そういう頭の体操はしていたので、(台風の際も)無観客でもいいからやろうじゃないかという議論は何度も出てきました」

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