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大谷翔平が2シーズンぶりマウンドで闘った葛藤とは 「二刀流」完全復活への途上

コロナ禍が逆風に

 米大リーグ、エンゼルスの大谷翔平選手(26)が時事通信のインタビューに応じ、メジャー3年目の2020年シーズンを振り返った。18年秋に右肘の内側側副靱帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)を受け、今季は2シーズンぶりに投手での復帰を果たし、代名詞でもある投打の「二刀流」でシーズンに臨んだ。だが、右前腕のけがもあって登板は2試合だけで0勝1敗、防御率37.80。打撃も44試合の出場で打率1割9分、7本塁打、24打点と物足りない成績に終わった。

 もっとも、大谷本人は決して悲観していない。「マウンドに立てたことはよかった。リハビリの過程(という意味)でも、もうちょっと今年のうちに投げたかったな、というのはあるが、それもそれでしょうがない。投げられたのは一つ、いいこと」。公式戦で先発する以上、いかにチームを勝利に導くかが任務だが、完全復活への途上でもある。投手として常に勝つことを追い求めるか、思い通りに投げられないこともあると受け止めるか―。登板中、そんな葛藤と闘っていたことも率直に明かした。(時事通信ロサンゼルス特派員 安岡朋彦)

◇ ◇ ◇

 新型コロナウイルスの感染拡大は、大リーグにも大きな影を落とした。キャンプから段階的な復帰へのプロセスを描いていた大谷にとって、コロナ禍は他の選手以上に逆風となったと言える。「しょうがないこと」と割り切る一方で、「もうちょっと、やっぱりしっかりと投げて、つくって(公式戦に)入りたかったなっていうのは、もちろんある」と本音を口にした。

 3月にキャンプが中断。「夏季キャンプ」と称してアナハイムの本拠地球場でチーム練習が再開したのは、7月になってからだった。7月7日の紅白戦でエンゼルスの主力打者らと対戦し、打者10人に1安打、7四球という大乱調。右打者の背後に投げてしまった場面もあった。6日後の紅白戦は制球に改善の兆しが見えたものの、打者15人に2安打、5四死球。19日の実戦形式では5回相当を無失点に抑えたが、直球は威力を欠いていた。シーズン前の調整はここまで。徐々に状態を上げていたとはいえ、大リーグの打者と渡り合うのには不十分だった。

 トミー・ジョン手術を受けた投手は通常、マイナーリーグなどで十分な調整を積んでからメジャーの復帰登板に臨む。例えば15年3月に手術を受けたダルビッシュ有投手(当時レンジャーズ、現カブス)は、16年5月1日にマイナーの2Aで実戦に復帰し、徐々にイニング数や球数を増やしながら2Aと3Aで計5試合に登板。5月28日になってメジャーに復帰した。

ぶっつけ本番で登板

 キャンプ中のビリー・エプラー・ゼネラルマネジャー(GM、当時)の話では、大谷も打者でメジャーの試合に出場する合間を縫ってマイナーで調整登板を重ね、5月半ばにメジャーで復帰登板する予定だった。しかし、コロナ禍で開幕が大幅に遅れた上に、マイナーリーグのシーズンは中止に。ぶっつけ本番に近い形でメジャーのマウンドに上がることを強いられた。

 大谷のメジャー復帰登板は開幕3戦目、7月26日のアスレチックス戦。結果は散々だった。打者6人に対し、3安打3四球で1死も奪えずにマウンドを降り、結局は5失点。腕を振り切れず、制球に苦しむ姿は本来の投球にほど遠かった。「ただ投げている感じ」と本人の弁。1週間後の8月2日、アストロズ戦で先発した際は、球速が97.1マイル(約156キロ)に達する場面もあったが、1回3分の2を投げ、無安打5四球、2失点で降板した。試合後には右腕の違和感を訴え、前腕の筋損傷が判明。この2試合で、今季の登板は終わった。

心得ている術後の実情

 トミー・ジョン手術を受けた投手は執刀からメジャー復帰まで1年以上を要する上に、本来の力を取り戻すまでにはさらに時間がかかるとされている。メジャー2年目の2013年に最多奪三振のタイトルを獲得する活躍を見せたダルビッシュは、15年の開幕前に靱帯損傷が判明し、手術を受けた。16年に復帰した後はダルビッシュらしからぬ低調な成績が続いていたが、今季7年ぶりのタイトルとなる最多勝に輝いた。

 大谷にとって日本ハムの先輩に当たり、親交のあるダルビッシュだけでなく、エンゼルスの同僚にも今季チーム最多の6勝を挙げたディラン・バンディ投手や救援のキーナン・ミドルトン投手ら手術経験者がいる。それだけに、「本当に良くなってくるのは3年目くらいから、と言われている」と術後の実情は十分に心得ている。今季と同様、来季も思うような投球ができない可能性があることも、ある程度は覚悟しているようだ。その上で大谷は、「ただね」と言葉を続けた。

「2人の自分」にギャップ

 「投げるからにはやっぱり抑えたいし、マウンドに行くからにはやっぱりチームが勝つように試合をつくりたいって思う。『まだまだリハビリの段階。復帰への段階を踏んでいるんだ、と思っていかなければいけない』という自分と、『試合である以上は、しっかりと抑えたい』と思う自分がいる。チーム外の、メディアとか、ファンの人もそうですけど、マウンドに上がるからには100%の結果を求めるのは普通のこと。その期待に応えたいなって思う自分もいる。そういうギャップは難しいところ」

 夏季キャンプでは、どんなに乱調であっても「100%の感覚で最初から投げられるとは思っていない」と冷静だった。しかし、公式戦復帰2試合目の登板となったアストロズ戦では二回途中から球速が落ちる異変があったのにも関わらず、交代を告げられるまで、投球の際に声を上げながら懸命に腕を振っていた。そんな姿からも、大谷の内なる闘いが透けて見えた。

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