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井上尚弥がラスベガスで見せた「力と技」 進化続けるモンスター

WBSS制覇で世界にアピール

 「モンスター(怪物)」が本場で力と技を見せつけた。10月31日、米ネバダ州ラスベガスで行われたボクシングの世界バンタム級タイトルマッチ。世界ボクシング協会(WBA)スーパー王座と国際ボクシング連盟(IBF)王座を保持する井上尚弥(27)=大橋=が、ジェーソン・モロニー(29)=オーストラリア=に7回KO勝ちした。初めて上がったラスベガスのリング。本来なら今年4月25日に世界ボクシング機構(WBO)王者の強敵、ジョンリール・カシメロ(フィリピン)と戦う予定だったが、新型コロナウイルスの影響で延期に。半年遅れの「ラスベガス・デビュー」で、いかにモンスターたるゆえんを示すか。そのテーマに即した、進化を続ける王者にふさわしい勝ちっぷりだった。(時事通信ロサンゼルス特派員 安岡朋彦)

◇ ◇ ◇

 井上尚は2019年11月のワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)バンタム級決勝で、WBAスーパー王者の実力者ノニト・ドネア(フィリピン)を判定で破って優勝し、世界的プロモーターのボブ・アラム氏が率いるトップランク社と契約した。およそ1年ぶりのリングは、ラスベガスでのお披露目の意味合いが強かった。

 WBSSでは、18年10月の1回戦でフアン・カルロス・パヤノ(プエルトリコ)を1回TKOで退け、19年5月の準決勝でもIBF王者だったエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)に2回TKO勝ち。決勝は判定勝ちだったものの、WBSSを通じて強さを世界に印象づけた。米国の老舗専門誌「リング」が選定する階級を度外視したランキング「パウンド・フォー・パウンド」では、ミドル級世界チャンピオンの大スター「カネロ」ことサウル・アルバレス(メキシコ)に次いで2位という高評価。当然ながら今回のラスベガスでの一戦には大きな期待がかかり、過去22戦の戦績が21勝(18KO)1敗でKO負けは一度もないモロニーを圧倒するような勝ち方が求められていた。

 そんなムードの中でも、本人は冷静だった。10月29日の公式記者会見後、日本メディアの囲み取材でKOでの決着について問われると、こう答えた。「そこ(KO)にとらわれないで、自分本来のボクシングを見せれば楽しんでもらえるんじゃないかなと思う。その中でKOを狙えるチャンスがあれば狙うだけ」

「モンスター」の意味

 WBSSの戦いぶりなどから強打のイメージが強い井上尚。同じ29日、「モンスター」の名付け親でもある所属ジムの大橋秀行会長は、ラスベガスのリングで披露させたいボクシングについて、こんな言葉を口にした。「強引にいくのではなくて、テクニックを見せた上でのKO。僕の言うモンスターとは、テクニックに優れ、なおかつ倒すという意味だから。リカルド・ロペスにマイク・タイソン(を足した)みたいな。そういうイメージ」

 ちょうど30年前の1990年10月。世界ボクシング評議会(WBC)ミニマム級王者の大橋からベルトを奪ったロペスは、洗練されたボクシングで22度の防衛を果たした軽量級の名チャンピオンだ。片やタイソンは、言わずとしれたヘビー級を席巻したスーパースター。大橋会長は、自身のかつてのライバルを含め、ラスベガスを沸かせたボクシング史に名を刻む2人の名を挙げて、モンスターの底知れぬ実力を表現した。

タフな挑戦者

 新型コロナウイルスの感染予防のため、選手ら関係者は全員がラスベガスの同じホテルに宿泊し、リングは隣接するコンベンションセンター(会議場)にしつらえられた。無観客のためファンの姿はなかったが、リングサイドではアラム氏をはじめトップランク社の関係者らが目を光らせていた。

 メインイベントのリングに上がった井上尚は、しっかりと結果で応えた。序盤から力強いジャブを突き、主導権を握る。ドネア戦から1年のブランクがあったが、強打は健在だ。有効打がモロニーを捉えるたびにリングサイドから関係者のうなり声が上がった。しかし、挑戦者は、それほどのパンチを浴びても、ガードが堅い上に打たれ強く、倒れない。井上尚は「やっていてタフだなと思った。いいジャブも入っていたが、(相手は)表情を変えずにやっていた。効いてるのかな、と思いながら試合をしていた」と振り返った。

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