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戦後保守政治の裏側11 政治による「言語操作」再論 歪曲を許し忘れるほど緩い国ではないはずだ

まさか歴史の改ざんは許すまい

 さらに「便宜を与えるような関与がない」という論拠も、結果論として疑問が生じる。なぜなら籠池が昭恵夫人付き職員に手紙で「早く買い取ることができませんか」と要請してから、約8カ月後には、その要請通り、売買契約が締結されたのだ。それも格安の値段でだ。結果的に「ゼロ回答」ではなく「満額回答」となったという指摘も理解できる。

 これについて安倍は、「その段階における回答はゼロ回答であった」(2018年2月28日・衆院予算委)と述べて、「関与」はないとの認識を繰り返した。

 しかし、途中経過で「ゼロ回答」だからといって、「関係」を否定できるのだろうか。この論理が許されるなら、あらゆる口利きに利用される可能性がある。途中でいったん、所管官庁から「ゼロ回答」をさせておいて、暗黙裡に結果として利益誘導するという手法に使われる可能性がある。悪質な「忖度」が横行し、「秘書や役人がやったことで、私は無関係」という、使い古された言い訳も復活しかねない。安倍のロジックは政治倫理の観点から問題があるという指摘が、与野党から聞こえてきた。

 安倍を後継者として育てた小泉純一郎元首相は、2018年4月に、こう嘆いた。

 「昭恵夫人は森友学園の名誉校長をしていながら、なんで関係していないと言えるのか。(中略)言い訳している状況だからね。言葉っていうのは大事だよ。関係があったのに何であんなことを言ったのか分からない」

 さらに一言、

 「信頼がなくなってきたな」

 小泉は、政治の「言葉」が国民と意味を共有すべきであることを訴えたのだろう。

 人間が「関係」という言葉を使うとき、その背景には、原因と結果を検証しようとする歴史的因果論への意思が働いている。その意思は、必然的に時間の連続性を前提としており、「その段階」と「この段階」で時間をぶつ切りにしては成立しない概念だ。

 安倍は「関係」という言葉から「時間的連続性」を脱落させている。これが無意識なら国語力の問題で済まされるが、意識的なら悪しき「操作」だ。いずれにせよ、この「操作」が許されれば、権力者の「言葉」による主観的な歴史観を許すことになる。

 菅政権になり、すっかり森友問題への人々の関心は薄れてしまった。政治による言葉の歪曲を許し、その歪曲を国民が忘れれば、政治は、どんな責任からも逃避することができる。悲惨な戦争への実感を失ったとはいえ、政治による言葉の歪曲を放置するほど、緩い国ではないと信じたい。(敬称略)【時事通信社「地方行政」2020年10月12日号より】

 菊池正史(きくち・まさし)日本テレビ政治部デスク。1968年生まれ。慶應義塾大大学院修了後、93年日本テレビ入社、 政治部に配属。旧社会党、自民党などを担当し、2005年から総理官邸クラブキャップ。11年から報道番組プロデューサー等を経て現在は政治部デスク。著書に「官房長官を見れば政権の実力がわかる」(PHP研究所)、「安倍晋三『保守』の 正体」(文藝春秋)などがある。

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