陸上の日本男子短距離界で、完全復活が待望される男がいる。100メートルで日本歴代4位となる10秒00の記録を持つ山県亮太(セイコー)。2018年は日本選手権を10秒05で制すなど日本選手に一度も負けず、夏のジャカルタ・アジア大会では自身2度目の10秒00を出して銅メダルを獲得した。しかし、昨季と今季は故障の影響で不本意な成績に終わり、試練の時が続く。来夏の東京五輪開幕まで9カ月を切った。ロンドン、リオデジャネイロ両五輪の100メートルで2大会連続準決勝に進んだ28歳が、現在の心境や来季への手応えを語った。(時事通信運動部 青木貴紀)
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―今季は8月23日のセイコー・ゴールデングランプリで1年3カ月ぶりのレース復帰を果たしたが、10秒42(向かい風0.3メートル)で予選敗退。右膝痛のため10月初めの日本選手権を欠場し、出場1試合のみでシーズンを終えた。
「いろいろ試したいことはあったが、けがもあって試せる場があまりなく残念でした。右膝は7月初めに違和感が出て、少しずつ痛みが強くなっていった。ゴールデングランプリ前はダッシュはほとんどやっていなかった。練習不足で体重も2~3キロ落ちていた。痛みはなく動ける状態にはなっていて、(東京五輪会場の)国立競技場で走れる機会だったので出場した。その後、なかなか治り切らなかった」
―ゴールデングランプリの結果や走りをどう自己分析しているか。
「練習不足の状態で勝負になるほど甘くはないと思っているので、そんなもんだろうという感じでした。タイムは出ていないが、意識を変えた部分は外見上で昨年と大きく違ったし、少しずつイメージ通りの走りに近くなってきている。(東京五輪を見据えて)ウオームアップから実際のレースまで、より具体的にイメージできるようになった。トラックは結構硬くてロンドン五輪の会場に近い感じがした。感触は悪くなかった」
―昨年から意識を変えた部分は。
「18~19年の冬季はウエートトレーニングを頑張り過ぎて重心が後ろに残るようになり、前傾姿勢をとるための力が少し低下していた。それが背中の痛みにもつながったのかなと思う。すぐに体が起きてしまう走りになっていたので、体づくりから変えていきたいと思って冬場から取り組み、その目標自体は達成できたと感じている」
―右膝を痛める前だった春頃の走りの感触は。
「(昨年からの)走りの変化や練習のタイムはかなり手応えがあった。重心が後ろに残る意識は、今はほとんどない」
復活への自信「絶対に速くなる」
―肺気胸のため欠場した19年に続き、今年も日本選手権の舞台に立てなかった。不本意なシーズンが続き、もどかしさを募らせていると思うが、精神面をどのようにコントロールしているか。
「慣れたと言ったら駄目なんでしょうけど、もはや気にならなくなってきた。慎重にやっていかないと五輪に影響が出る。まだ焦る時期ではない。9月以降はほとんど走っていないが、何も不安は持っていない。走り始めたら3カ月もあればベースは戻る」
―自身のツイッターで、「もう一度自己記録を出して五輪で活躍する」「必ずまた強くなって戻ってくるから期待していてください」とつづった。これまではあまり口にしてこなかった強い覚悟が感じられた。復活への自信は。
「できると思っています。今までは安定して結果を出すために『根拠』をすごく大事にしてきて、できない約束はしたくないような感じで言葉にしていなかったところがあり、自分の中に『逃げ道』としてあったような気がした。実際に気持ちの変化があり、今はそういう考えから外れて、どういう自分になりたいかという気持ちをもっと強く持っている。見据えている課題(の克服)や、やろうとしていることがきちんと全部できたら絶対に速くなる。自己ベストは出るだろうと強く感じている」
―苦しい時期に自身を奮い立たせ、前向きに取り組む原動力となっているものは。
「周りの人たちがすごく支えてくれているので。会社も、ここ2年結果が出ていないが『気にしないで頑張って』と言葉をかけてくれる。チームスタッフも嫌な顔をせず、僕のわがままに付き合ってくれている。応援してくれている人も少なからずいてくれると思うので、結果で恩返ししたい。卑屈になったら周りの人たちに失礼。自分もここで終わりたくはない」
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