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植物たちも時差出勤? 花が咲く時間に注目しよう

岩槻秀明(自然科学ライター)

 近年は勤務体系も多様化し、朝晩の混雑緩和のために時差出勤をする人も増えた。そんな人々の暮らしになぞらえ、植物の開花時間を勤務時間に見立ててみると…やはり植物たちも、日中の明るい時間帯を通常勤務とするものが多い。そして中には夜勤や時差出勤、サマータイム出勤のようなことをしているものもある。植物たちの多様な「勤務時間」にスポットを当ててみたい。

夏の夜は夜勤組が大活躍!
 植物がきれいな花を咲かせる最大の目的、それは虫を呼んで、受粉の手助けをしてもらうことにある。昼に咲く花が多いのは、数の多い昼行性昆虫(チョウやハチなど)の力を借りている種類が多いからであろう。一方で夏の花の中には、人間界で言うところの「夜勤組」、つまり夜に咲くものも少なくない。これらは、ガなどの夜行性の昆虫に花粉を運んでもらっている。

 夜に咲く花がまるで月見をしているようだ、ということから名付けられたツキミソウ。白い幽玄な花を咲かせるが、今は栽培している人が少なくなり、かなり稀(まれ)なものになってしまった。代わりによく見掛けるのが、ピンクの花を咲かせるモモイロヒルザキツキミソウ。昼咲きの名の通り、ツキミソウの仲間でありながら日中も咲いている。

 ツキミソウと同じような夜勤組を他にも挙げておこう。例えば古くから観賞用に栽培されているオシロイバナ。午後4時ごろから咲き始め、翌朝にはしぼむ。開花時間から英語ではfour-o’clock(4時)という。

 またマツヨイグサの仲間も夜になると黄色い花を咲かせる。かつては大きな黄色い花を咲かせるオオマツヨイグサが多かったというが、今ではそれは少数派となり、小ぶりの花をつけるメマツヨイグサやコマツヨイグサが主流となっている。

 童謡『まっかな秋』に登場するカラスウリも夜勤組だ。鶏の卵くらいの大きさの真っ赤な果実が秋の野辺ではよく目につくが、夜咲きゆえにその花を見たことのある方は意外に少ないだろう。花びらは白で先がレースのように切れ込み、月夜にぼんやりと浮かぶその姿はなんとも趣がある。余談だが、近年ちょくちょく見掛けるようになったヘビウリもカラスウリと同じ仲間だ。ヘビウリの果実は細長くてくねくねと曲がり、文字通りヘビそっくりだ。このヘビウリの花は、同じ仲間であるカラスウリとよく似ている。ただカラスウリは夜咲きなのに対し、ヘビウリは昼咲きだ。同じ仲間で姿もそっくりなのに、開花時間が異なるというのは興味深い。

 実は私には「同じ仲間なら花が咲く時間帯も同じだろう」という思い込みによる、ちょっぴり苦い経験がある。それはヘチマとトカドヘチマにまつわることだ。

 ヘチマは小学校の理科の授業で扱われる定番の植物。つるをぐんぐん伸ばし、葉のわきに黄色い花を次々と咲かせる。これを使って雄花と雌花のつくりを学んだ記憶のある方も多いだろう。

 授業で花の実物を見ながら学べるのは、咲く時間が昼間だからにほかならない。「ヘチマの仲間なら、他も昼咲きなのだろう…」と、私はすっかりそう思い込んでしまっていたのだった。

 対するトカドヘチマは、十角(とかど)とも書くように、果実の断面が多角形状(ヘチマは円形)で、東南アジアなどの地域では果実を食用にしている。近年は国内でも新顔の野菜として家庭菜園用の苗が入手できるようになった。私も早速購入し、自宅の庭で栽培を試みた。しかし最初の栽培で見られたのは、残念ながらしぼんだ花だけ。数年後、再び苗を見つけたので、チャレンジしてみることにした。しかし、相変わらず花はしぼんでいる。ところが、たまたま別の用事で夜に庭に出てみると、トカドヘチマが何輪も花を咲かせているではないか。

 そう、ヘチマが昼咲きなのに対し、トカドヘチマは夜咲きだという事実をこの時初めて知ったのだった。

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