新型コロナウイルスの感染拡大でテニスの四大大会、全仏オープンが例年の5~6月から延期となり、9月27日~10月11日に開催された。折しもフランスでは新規のコロナ感染者が再び増加傾向にあり、大会期間中に一日1万人を超えた日も。スポーツの世界的なビッグイベントは、感染リスクと隣り合わせだった。現地パリのローランギャロスで約3週間取材した記者の視点から、運営面などをリポートする。(時事通信ロンドン特派員 長谷部良太)
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全仏オープンの現場取材は6年連続。コロナ下で開催された今回は当然ながら、過去になかったメディア対応だった。コロナ感染予防策は開幕前から徹底され、会場に入るには、スタッフやメディアら関係者は全員がPCR検査を受け、陰性結果が示された書類を提出しなければならなかった。
開幕4日前の9月23日夜。PCR検査のため、大会側が準備した会場付近の仮設医療施設を訪れた。備え付けの除菌ジェルで手を消毒した後、モニターのタッチパネルで名前や住所、携帯電話番号などの個人情報を入力。データをプリントアウトして受付に持っていくと、検査キットが手渡された。午後7時ごろだったが、検査員は10人以上がフル稼働。カーテンで仕切られたブースの一つに案内され、異様な長さの綿棒を鼻の奥まで突っ込まれた。妙な感覚と多少の痛みで思わず涙が出て、検査員の顔がにじんで見えた。
検査キットのビニール袋に綿棒を入れて密封。出口で改めて個人情報を確認された。その際に「結果が出るまで2~4日かかる」と言われた。事前の連絡では検査から24時間後に専用サイトで結果が分かると知らされていたから、驚きを交えて理由を問うと「想定よりも忙しく、検査に時間がかかっている」との返答。4日後なら開幕当日。それでは開幕日を取材できなくなるかもしれない。そんな懸念もあったが、2日後の25日深夜、検査結果がメールで知らされた。
日本で必須の「検温」なし
届いたメールにあった医療機関のウェブサイトを開くと、フランス語で「陰性」と書かれたPDFファイルが見つかった。このファイルと、会場の外で事前に受け取ったIDカードを持参し、開幕前日の26日から会場入りすることができた。メディア専用の入場ゲートにIDカードをかざすと、腰の付近にあるバーが回転して前に進める。PCR検査の陰性結果がシステムに登録されていない者は、バーが動かない仕組みになっていた。
一方で、日本のスポーツ大会ではコロナ対策が施された上で必ずと言っていいほど取材者に課せられている検温がなかった。日本では主に競技施設の入り口などで体温チェックがあり、基準の数値を超えるとシャットアウトされる。これに対し、全仏オープンの期間中、選手を含め検温の要求は皆無だった。
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