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柔道界、コロナ禍でも前へ 稽古は対策徹底、動画で魅力発信

一人でやれる稽古も

 新型コロナウイルスの急速な感染拡大により、さまざまなスポーツが大会の中止や延期に追い込まれた。特に影響が大きかったのは、選手同士の接触が前提となる競技だ。代表的とも言える柔道界は、稽古の強度を上げるのにも慎重な対応が求められる。そうした中でも少しずつ日常に近づこうと、そしてコロナ禍の中でも魅力を発信するために、さまざまな試みを続けている。(時事通信運動部 岩尾哲大)

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 段位の承認や普及、発展を担う柔道総本山の講道館(東京都文京区)は、2月下旬から中断していた道場での稽古を6月に再開した。参加者には体温や体調の変化の有無を記録する「健康観察カード」の提出やマスクの着用を求め、更衣室のロッカーは使用禁止。稽古後は連日、職員がくまなく道場を消毒するなど、感染対策を徹底している。組み合う稽古の再開時期は慎重に見極め、都内の感染状況を踏まえて段階を戻したこともあった。今も、組み合う練習をする場合は相手の人数を2、3人に限定。万が一感染者が出たとしても、濃厚接触者を特定しやすい状況下に置いている。

 稽古の再開当初、主に少年部で指導されたのが、一人でやることも可能な打ち込みだ。相手と組んだ状態を想定して背負い投げの動作を反復したり、大外刈りの形をつくりながら片方の足でケンケンをしたり、壁に向かっての内股の足上げをしたり。一見地味に映る練習でも、正しい技を身に付けるだけでなく、体力強化も図れる。講道館の道場指導部長を務める鮫島元成さんは「成果がまだ見えなくても、これから出てくると思う。一人での稽古が自立を助けている可能性は大きい」と、心身両面での子どもたちの成長に期待を寄せる。

万全期して講習会

 毎年恒例の夏期講習会も、コロナ対策に万全を期して実施。講道館の館長で1976年モントリオール五輪無差別級金メダリストの上村春樹さんは「何ができるか、どうやったら(感染を)防げるのかを模索しながらやっていかないといけない」との思いを抱き、稽古を見守った。高段者向けに形を指導する第1部では、組み合わなくても正しい動きを身に付けられる教え方を工夫した。

 指導者の養成を主目的とする「教科柔道指導者講習会」。鮫島さんによると、初段を取得するため、京都から自家用車で出向いた中学教師もいた。「参加してくれてありがとう、という言葉しか出ない」。これまでのように常に組み合って教えることができず、もどかしさも感じることがあっても「われわれ指導員には充実感があった」と話す。

5カ月半ぶり「心に火」

 学生柔道界の強豪、東海大は、大学側の方針にも則り、4月初旬から約5カ月半にわたり稽古を中断。男子柔道部の上水研一朗監督は当初、部員たちに「優先順位としては命を守る行動が第一、第二に学業、第三に柔道」と伝えたという。大学柔道で三つの大きな全国大会はいずれも中止が決定。「4年生は特に、断腸の思いはあっただろう。だが、社会情勢が通常の時だからこそ柔道ができる。われわれがいて社会があるわけではなく、社会の中にわれわれがいる」との思いがあった。

 慎重に検討を重ねて、9月14日から神奈川県平塚市の道場での稽古を再開した。上水監督は久々に道場に集まった学生たちの様子をこう表現した。「心に火がともっているというか、精神的な部分でのやる気は非常によく見えた。ようやく夜が明けたというように」

他大学が練習強度を上げても焦らず

 東海大の男子部員数は約130人にのぼるが、重量級と軽量級を午前、午後に分けるなどして、一度の稽古は30人程度に限って実施。間隔を十分に取り、距離が近づきそうになれば、フェースシールドを装着して指導する上水監督が「広がるよ」と呼び掛ける。再開当初は、密接時間が長くなる寝技の練習を行わず、実戦的な稽古となる立ち技乱取りの本数は少なめに設定した。

 全日本柔道連盟(全柔連)が6月からの稽古再開を認める指針を出し、他の大学などが徐々に練習強度を上げている中でも、上水監督は「焦りはなかった」。10月31日から開催される講道館杯全日本体重別選手権(千葉ポートアリーナ)には部員も出場を予定している。その状況下でも、「難しいが、(選手によって調整が)間に合わないと判断した場合には、無理だぞ、とも言ってあげないといけない」。コロナ対策を念頭に置き、教え子を思いやりながらの指導を続ける。

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