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「部活の野球」プロOBが活性化へ 森脇浩司さん先陣

ゴムボールで特守

 森脇さんは守備練習に時間を割いた。目を引いたのが、不規則に跳ねるゴムボールを使った捕球練習。ダイエー、ソフトバンクのコーチ時代、松田宣浩内野手や川崎宗則内野手(現BCリーグ栃木)、小久保裕紀さんらをゴムボールによる「特守」で指導したという。通称「イレギュラーボール」を、中学生らはなかなかグラブに収められない。

 そんな球児たちに、森脇さんはこう説明した。「捕球ミスやエラーをしても、アウトにできるんだよ」。ゴロを完璧に捕れずにグラブからこぼしても焦らず、冷静に拾って味方に送球する。それが重要だと説いた。すると、回数を重ねていくにつれて、捕球できるようになっていった。「こういう機会を重ねるごとに、今まで捕れなかった球が捕れるようになったり、バットに当たらなかったものが当たるようになったり。(打撃の打球が)20メートルしか飛ばなかったものが30メートル飛ぶようになったとか。そういう時間にしたいと思う」

変化に目を向ける

 プロでの指導歴が長い森脇さんがアマチュア選手に教える場合、大切にしていることは何か。それを問うと、対象が誰であれ、答えは同じだという。「選手の変化を見逃さないこと」

 この姿勢は野球教室の最中にも垣間見えた。一つの練習メニューが終わるたび、森脇さんは受講した13人を体育館の前方に集め、会話をする機会を設けた。質問や問いかけに対して、視線を合わせてうなずく子もいれば、恥ずかしそうに目を背ける子もいた。それでも「最後の方は目を背ける子の数がどんどん少なくなって、2~3時間でも人は変化するんだなと改めて思った。人って素晴らしいな、子どもって素晴らしいなと」。言葉に実感を込めた。

親心の目配りで寄り添う

 選手の「変化」を感じて技術や精神面の向上につなげるために、何が必要なのか。これもまた、森脇さんの答えは単純明快だった。「相手のことを心から思うこと」だという。

 例えば、球場に入る際の選手の足取りに注目してみる。ある日は軽快に階段を登る選手が、別の日には一段一段ゆっくりと歩く。ここにも、選手の心境の変化を読み取ることができる。足取りが重いと「大きな悩み抱えているのかな、と思う。どこかのタイミングで『どうしたの?』と聞くこともできる」。そして、「選手を家族なんだ、わが子なんだと思えば気付ける」と続けた。親心とも言うべき目配りで選手一人ひとりに寄り添い、小さな変化にも敏感になる。技術向上の域を超えた精神面のアプローチは、指導者にとってとても大事なことだという。

野球も勉強も「人間関係が大切」

 球界でも博学として知られる森脇さん。技術指導はもちろん、今回の野球教室を通じて伝えたいメッセージがあった。相手は心身ともに伸び盛りの中学生ら。その成長を見据え、「悩みを抱える瞬間は必ず訪れる。そういうときに、絶対に一人で抱え込まないで」。野球も勉強も「人間関係が大切」と強調し、「自分の胸の内をちゃんと聞いてくれる人、本音で話せる相手を見つけて相談する習慣をつけよう」。力を込めて、そう言った。

 今回の部活動支援事業は、公立中学2校で11月まで、それぞれ3回ずつ実施される予定。志賀中と別の中学校には、広島時代に3度の盗塁王に輝いた高橋慶彦さんが出向くことになっている。1回目の指導教室を終えた森脇さんは「子どもが一人の大人と接して、その人から何かを感じることが大事。触れ合う時間が、これからたくさんできればいい」と期待を寄せている。(2020年10月15日掲載)

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