少子化や興味の多様化などに伴い中学生の野球離れが指摘されている中、部活動としての野球を活性化していこうとする動きがある。東京に本社を置き、子ども向けスポーツスクール事業を運営しているリーフラスが全国野球振興会(日本プロ野球OBクラブ)と提携して、中学の部活動支援事業を始めた。最初の試みは9月に福岡市の中学校で行われた野球教室。プロ野球ソフトバンクのコーチやオリックスの監督などを歴任した森脇浩司さん(60)が講師を務めた。森脇さんは中学生の技術向上だけでなく、野球を通じた心の成長にも目を向けている。(時事通信福岡支社編集部 近藤健吾)
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中学校の部活動では、部員減だけでなく、顧問の教員が過重労働や休日勤務などを強いられるという課題もある。近年は、野球少年の多くがボーイズ・リーグなど学校以外のチームでプレーしている。こうした中、リーフラスが展開する「民間企業と元プロ野球経験者による社会貢献型の部活動支援事業」に、福岡市の福博綜合印刷が賛同。市内にある公立中学2校で、元プロ選手による野球教室が実施されることになった。
兵庫県出身の森脇さんは、県立の社(やしろ)高からドラフト2位で1979年に近鉄入り。3年目から1軍に定着し、堅守の内野手として活躍した。その後広島、南海(後にダイエー)でプレーし、96年を最後に現役を引退。ダイエー(後にソフトバンク)で主に内野守備担当コーチを務め、巨人、オリックス、中日でも指導。卓越した守備理論、ノックの腕前を含めたコーチングに定評があった。この間、オリックスで指揮を執り、2014年はソフトバンクとリーグ優勝を激しく争った。18年を最後にプロの指導から退き、19年からは福岡工大でコーチを務めている。
振り出しは「部員9人」
森脇さんは今回、福岡市中心部から博多湾を挟んで対岸に位置する市立志賀(しか)中に出向いた。JR西戸崎(さいとざき)駅が最寄り。学校周辺にはかつて、ソフトバンクの2軍本拠地「雁の巣球場」や選手寮「西戸崎合宿所」が存在していた。毎年1月には新人選手の入寮式、合同自主トレーニングが行われ、選手が中学校の近くを走る姿も見られたという。「野球の街」として活気があった。
だが、16年に2軍本拠地と選手寮が福岡県南部の筑後市に完全移転。老朽化した西戸崎合宿所は取り壊され、今の西戸崎駅周辺は人通りも少なく、閑散としている。博多や天神など福岡市中心部からは陸続きになってはいるものの、交通の便が良くない。放課後に学習塾に通う生徒は少なく、志賀中の知念透校長は「基本的には島と一緒。新たな人との出会いは少ない」と話す。野球部員は現在9人。試合ができる最低限の人数だ。
距離感の近さを歓迎
刺激の少ない日常を送る野球部員に、少しでも野球の楽しさを伝えたい―。ここに、今回の部活動支援事業の狙いがある。野球教室でプロ経験者を講師として呼ぶ場合、参加者の規模が数百人になることもしばしば。そんな中、今回の対象はわずか9人。さらに、この指導教室は11月までに計3回も実施される。こうした試みを、森脇さんは「(中学生と)距離感が近い中で接することができる。むしろ素晴らしいと思う」と率直に歓迎した。
手始めとなった9月12日は台風10号が去った直後だったものの、福岡は朝からあいにくの雨。校庭を使用できず、午前8時30分から体育館での野球教室がスタートした。集まったのは9人の部員と、近隣の小学校から参加した児童4人の計13人。元プロ野球選手と接する貴重な機会とあって、皆が真剣な表情で森脇さんの話に耳を傾けた。
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