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東京で「何か」が行われ、その先の五輪は

シャプレ名誉教授に聞く

 コロナ禍でも来夏の東京五輪は開催されるのか。国内外で各競技の大会が規制しながら再開しつつあるものの、五輪は206の国・地域から1万人を超す選手が参加し、関係者パスが数十万枚にもなる巨大イベント。大会組織委員会は簡素化、日本政府はコロナ対策を進めつつ開催へ前向きな空気を醸し出す。決定権を握る国際オリンピック委員会(IOC)の腹の内は―。

 ローザンヌ大のジャン・ルー・シャプレ名誉教授は「いずれにせよやると彼らは既に決めたと思う」と語った。IOCのクリストフ・デュビ五輪統括部長、ドーピング独立検査機関ITAのベンヤミン・コーエン事務総長らを大学で教え、学究の立場からIOCと五輪に長年関わり、その内情にも詳しい識者。2021年に延期された東京と、その先の五輪について聞いた。(時事通信運動部・和田隆文)

◇ ◇ ◇

 シャプレ氏は「東京大会は観客を減らして開催されると思う。半分か、もしくは3分の1か」と自身の見解を語った。受け入れる日本でコロナ感染が比較的落ち着いているため、IOCは選手団の出入国時、選手村など宿泊先、競技会場でのPCR検査を徹底すればリスクを避けられると考えているのではないかという。「難解だが、あとは検査の質とスピードなど組織の問題。ワクチンよりも検査が頼りになる」と話し、ワクチンの有無ではなく日本の検査体制が問われるとした。

今の米国で開催なら中止

 パンデミック(世界的流行)の先行きが読めず、制御もできないため中止の選択肢は排除できないとして、「例えば米国で今、五輪を開催しなくてはならないとすれば、おそらく中止になる」と言い切った。開催可否を決める時期を「中止の決断を迫られるにしても早くて来春だろう。日本側はぎりぎりまで粘る」とする一方で、「日本もIOCも目下、中止は頭にない」とみている。

 日本側の視点からすれば、中止したくないのは招致以降の7年間で施設を含む準備に巨額の費用を投じたからという実質的な側面だけではなく、「イメージ(印象、心証)に関わるから」だと分析する。「われわれは地政学的なものの中で生きている。例えば、日本と中国にしてもイメージを争っている」とし、五輪中止が国の印象にもたらす負の影響を政府が懸念しているとみる。

 IOCのバッハ会長は今年3月に延期を決めた際に中止にすることもできたと発言したが、シャプレ氏は懐疑的だ。日本だけでなく、この先の開催国の信用も失いかねず、選手からも大きな重圧が懸かったはずだという。「準備してきたものをローザンヌからひっくり返すとは何ごとか、と声が上がっただろう。テニスやサッカーなどはさておき、多くの競技にとって五輪は選手が輝ける数少ない舞台だ」とし、IOCが一方的に中止を決めることはできなかったはずだと振り返る。

参加したい選手だけでも

 中止に備えてIOCは保険に入っている。それでも放映権料やスポンサー契約料の返済を求められるはずで、中止によって失う収益も大きい。「それは何十億ドルにもなり、IOCは中止を恐れる。だからこそ『何か』を計画し、体系化して編成してくる。縮小され、簡略化されたものになるかもしれないが(来夏に東京で)『何か』は行われるだろう。それは間違いない」と語った。

 コロナ禍での開催への不安から、選手団派遣をためらう国内オリンピック委員会(NOC)や出場を取りやめる選手が出てくる懸念もある。大国や有力選手の参加拒否はメダルや大会そのものの価値を脅かすことにもなりかねないが、「IOCは五輪への参加を強制しない。それぞれがやりたいようにすればいいと対応し、参加したい選手のために五輪を開催するだろう」と見通した。

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