2020年10月16日13時30分
「ナゴルノカラバフの戦闘は、これからの戦争の形を示している」。ロシアの国営メディアRTが伝えた同国軍事専門家の分析だ。従来この地域で行われてきた戦闘とは異なり、今回アゼルバイジャン軍は攻撃型ドローンを多用してアルメニア軍の戦車を無力化した。トルコとイスラエルがそれぞれ供与した高性能ドローンは、敵防衛レーダー網の届かない高高度を飛行し、AIの助けで正確に目標を爆撃した。(基本的にロシア製である)アルメニア戦車部隊の防空システムは全く役に立たなかったという。
トルコがアゼルバイジャンに売却したドローンはイスラエルの技術を導入したと言われている。製造しているのはエルドアン大統領の女婿セルジュク・バイラクダルが支配する会社だ。この一件を見ても、エルドアンが最近イスラエルと国交を正常化したアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンを裏切り者呼ばわりして非難する欺瞞(ぎまん)のスケールに圧倒される。そもそもトルコはイスラエルの建国を最も早く承認した国の一つで、紆余(うよ)曲折があったにせよ、長年、軍事協力を進めてきた相手ではないか。(東海大学平和戦略国際研究所・客員教授 新谷恵司)
エルドアンの率いる「公正発展党」(AKP)は、イスラムを政治利用することで政権の座に就き(Political Islam)、今もスンニ派世界では唯一政権を維持している政党だ。10年前、チュニジア南部で行商の青年が焼身自殺したことをきっかけに野火のように広がった「アラブの春」は、各地のイスラム過激主義者「ムスリム同胞団」に政権到達の機会を与えたが、2013年、エジプトのムルシ政権がシシ将軍(現大統領)のクーデターでつぶされると、同胞団には厳しい冬の時代が到来した。幹部の多くはトルコに逃げ、またリビアに逃げた幹部はトルコの後押しを受けてイスラム色の濃いトリポリ政府をもり立てようとした。
トルコは、自国を同胞団員の避難所とするだけでなく、陥落寸前であったトリポリにはシリアのイスラム戦闘員を送り込んで戦況を逆転させ、サウジアラビアによる侵攻の危機もささやかれたカタール封鎖の初期には、素早く駐留部隊の派遣と大量の援助物資輸送を実施して、最悪の結果を回避した。既に10年間内戦状態が続くシリアについて言えば、一貫してスンニ派武装勢力の後ろ盾となっている。
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