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【地球コラム】ハリス氏、「ガラスの天井」破れるか

「4年後の大統領」射程に

 米国社会で進行しつつあるもう一つの変容はジェンダーをめぐるものだ。男女平等が進んでいるように思われることの多い米国だが、上院の女性議員は1992年の選挙前には100人のうちわずか2人(民主・共和それぞれ1人)だった。その後、女性の代表者を増やそうとする組織的な運動などの成果もあり、現在ではハリス氏を含め26人、全体の4分の1超を占めるまでになった(下院は435人のうち101人)。

 女性上院議員は、リベラル色の強い民主党が17人と多いが、共和党にも9人いる。選挙で二大政党の候補が両方とも女性ということも珍しくなくなった。東・西海岸など進歩的な地方以外からも女性議員が選ばれるようになってきている。ハリス氏の地元カリフォルニア州では1993年以降、上院の2議席とも女性が占めている。過去30年ほどの間に連邦議会における女性議員の数は大きく伸びたことになる。

 大統領・副大統領への挑戦に目を向けると、二大政党が正副いずれかの大統領候補に女性を指名するのは史上4度目だ。これまでに指名を受けたのはジェラルディン・フェラーロ副大統領候補(1984年、民主党)、サラ・ぺイリン副大統領候補(2008年、共和党)、ヒラリー・クリントン大統領候補(2016年、民主党)の3人だが、いずれの場合も勝利を手にすることはなかった。また、ハリス氏は民主党の大統領候補指名争いに参戦したが、支持を伸ばせず、昨年12月に撤退を余儀なくされた。

 正式に副大統領候補となった8月の民主党大会でのスピーチでハリス氏は、女性参政権運動や公民権運動で活躍した黒人女性たちの名を挙げて、「彼女たちの努力があったから、今の私がいる」と敬意を表した。2009年に亡くなった母からは「あなたが初めて何かを成し遂げる人になることもあるだろう。そうなったら、自分が最後にならないように」と教えられたともたびたび語り、自らが受け取ったバトンを次の世代に渡し、道を開く責任があると感じているようだ。党大会スピーチでは「今回の選挙は、歴史のコースを変えるチャンスだ。信念、希望、自信を持って闘おう」と、強い意気込みを示した。

 バイデン氏が当選すれば、就任時には78歳で、史上最高齢の大統領となる。4年後には再選を目指さず引退するのではないかという臆測もあり、そうなれば、後任候補ナンバーワンはハリス氏となる。ヒラリー・クリントン氏がわずかの差で成し遂げられなかった史上初の女性大統領という「夢」に最も近いところに、今、ハリス氏はいる。(2020年10月13日配信)

◇ ◇ ◇

 小野恵子(おの・けいこ) 政治学博士(アメリカ政治学)。国際基督教大学社会科学研究所研究員。テンプル大学日本校(TUJ)にて、政治学、データサイエンスなどの講義を担当している。政策研究大学院大学(GRIPS)兼任講師。近著に「米社会における格差の変容と2016年大統領選挙:白人高卒有権者に見るバックラッシュとトランプ支持」(「選挙研究」、2017年)。共著に「日本の全市町村における人口の自然増減の分布と説明要因」(2017年)、「プロ直伝 伝わるデータ・ビジュアル術―Excelだけでは作れないデータ可視化レシピ」(2019年)などがある。

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