全日本実業団対抗選手権女子1万メートルのレース後、1位の鍋島莉奈(中央)、3位の前田穂南(右)と笑顔で記念撮影に応じる松田瑞生=2020年9月18日、埼玉・熊谷スポーツ文化公園陸上競技場【時事通信社】
女子マラソンで東京五輪代表の座を逃し、涙を流した記者会見から半年余り。松田瑞生(ダイハツ)にトラックで笑顔が戻った。埼玉県熊谷市で9月18日に行われた陸上の全日本実業団対抗選手権女子1万メートル。ともに五輪マラソン代表の前田穂南(天満屋)と一山麻緒(ワコール)を振り切り、鍋島莉奈(日本郵政グループ)に次ぐ2位に入った。モヤモヤした思いを振り払うかのような粘り強い走り。復活を印象付け、新たなターゲットとする1万メートルでの東京五輪出場に向けて確かな一歩を刻んだ。(時事通信運動部 青木貴紀)
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4人の激しい争いとなったレースは、9000メートルを過ぎて一山が遅れ始めた。3人で競り合ったままラスト1周の鐘が鳴り、鍋島が得意のスパートを仕掛け、松田は懸命に食らいつく。鍋島に約3秒差で競り負けたが、32分6秒46で2位。五輪代表の2人に先着し、負けず嫌いな性格とトップランナーの意地が表れた。
ゴール後は笑顔で鍋島、前田と肩を組み、記念撮影には指でピースを示しながら応じた。大阪生まれの大阪育ちで、普段は底抜けに明るい。スタンドにいたダイハツの山中美和子監督らチームスタッフを見つけて、「ごめん、1位取れんかったわ」。悔しさをにじませたが、「みっちゃん、頑張った。よかったよ」と拍手で迎えられると、照れくさそうに笑い、表情には充実感が漂っていた。
「チャンスがあるなら」と方向転換
1月の大阪国際女子マラソン。日本歴代6位(当時)の2時間21分47秒で優勝し、東京五輪の最後の代表切符をつかみかけた。だが、3月の名古屋ウィメンズを日本歴代4位となる2時間20分29秒で制した一山が代表入り。松田は補欠となった。代表落選からわずか4日後。松田は気持ちの整理がつかないまま、昨秋のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)で代表入りした前田、そして一山と並んで五輪代表記者会見に参加し、会見途中で大粒の涙が頰をこぼれ落ちた。
山中監督と話し合い、「チャンスがあるなら狙おう」と1万メートルで五輪出場を目指す方向に切り替えた。ただ、すぐには覚悟が固まり切らず、調子も思うように上がらない。新型コロナウイルスの影響でレースがなかった時期を経て、7月のホクレン・ディスタンスチャレンジ網走大会の1万メートルに臨んだが、本来の切れがなく8位にとどまった。
その後、夏場は北海道士別市でチーム合宿を行い、地道に練習を積んだ。その成果が全日本実業団のレースに表れた。山中監督は「通過点と言いつつも、ここで形にしないと次につながらないと思ったので、プレッシャーを感じていた」と打ち明ける。「ここに至るまでに試練がいくつもあり、レース直前まで表情が冴えなかった。『周りと比べず、とにかく丁寧にレースを運ぼう』と話した。中盤以降は表情にもゆとりが出てきたのでホッとした。人間的にも成長できたのではないかと思う」。コーチ時代から松田に寄り添ってきた同監督は、その力走を率直に喜んだ。
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