新型コロナウイルスの影響で第102回全国高校野球選手権の地方大会が中止となった今夏、その代替大会が全47都道府県高校野球連盟の主催で行われ、全て終了した。高校球児の大きな目標となる「夏の甲子園」がなくなった上、3年生にとって集大成の地方大会も取りやめに。そうした状況下、日頃から選手や監督と向き合っている都道府県高野連が、感染防止策や安全対策を徹底しながら尽力。原則無観客の中でも、全国各地で夏の球音が響き渡った。
都道府県によっては、通常の頂上決戦(決勝)を行わずベスト4や8強までにとどめたり、7イニング制にしたりと、慎重を期して大会を計画。雨の影響で大会方式やスケジュールを変更したところもあるが、コロナ禍が理由の打ち切りはなかった。それぞれの思いで待望の公式戦に臨んだ選手らの「ひと夏」を追った。(時事通信運動部 嶋岡蒼、浅野光青、大戸琳太郎)
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7月1日。全国に先駆けて岩手県で「夏季岩手県高等学校野球大会」が開幕した。地区予選となる沿岸北地区の初戦、山田が宮古に0―13の五回コールドで大敗。山田には、こんな実情があった。もともと野球部員は6人だけ。とはいえ、部員不足の学校同士で組む連合チームではなく、単独で出場したい。そのため、鈴木陸翔主将が大会前に「助っ人」として3人を誘い、9人をそろえた。
初戦の2週間前から急きょ練習に参加した山崎北斗選手は本来、ボート部員。試合では遊撃手を任された。今夏は高校スポーツの祭典、全国高校総合体育大会(高校総体)も中止。県の総体は一部競技の代替大会が実施されたが、ボートは対象外だった。慣れない野球。エラーもあった。でも、表情はすがすがしい。「何より、この夏の大きな大会に出られたことがうれしい」。競技は異なっても、仲間とプレーできたことに「感謝の気持ちを込めて、ありがとうと言いたい」。実感がこもっていた。
記念の一戦、勝利で飾る
宮古商工は、今年4月に宮古商と宮古工が統合して初の公式戦を迎え、岩泉に6―1で快勝。記念すべき一戦を飾った。2安打4打点と活躍した川戸元主将は「代替大会が決まり、初勝利は自分たち(の代)が挙げると話していた」と満足そうに振り返った。
旧両校は昨年11月から、統合に備えて合同練習を開始。冬場に入る時期だったことから、基礎練習を軸にした。年が明けて2月になり、春の大会に向けて実戦練習を始めようとしていた頃、コロナの影響で部活動が停止に。統合校として実戦を踏まえた練習ができるようになったのは、5月に入ってから。限られた時間の中でチーム一体になるため、練習中の移動を駆け足にするなど効率性を重視した。その姿勢が初勝利に結びつき、川戸主将は「全員が全力で準備してきた」と胸を張った。
岩手県は7月下旬まで全国の都道府県で唯一、コロナ感染者が確認されなかった。それでも「大会をやりたいからといって、『はい、やります』とはならなかった」と県高野連の大原茂樹理事長。開催への道のりは容易ではなかったという。大原理事長は期間中、人づてに参加した選手たちの「大会ができてよかった」「やり切れた」などの声を耳にして、心が和んだ。「やり切ったと、彼らがそう感じているなら本望です」
【大分】「耐えた日々 待ち望んだ夏、開幕。」
「耐えた日々 待ち望んだ夏、開幕。」。7月14日からの「2020大分県高等学校野球大会」に向けて、同県高野連が加盟校の野球部員を対象に大会キャッチフレーズを募集。その最優秀賞となった中津南の佐伯深太選手による応募作だ。高校球児の心情を素直に、シンプルに表現している。県高野連の奥田宏会長は「胸を打つものがあった」と話す。
コロナ対策には万全を期し、加盟各校の野球部長や保護者会とも大会前に打ち合わせ。7月31日の決勝で津久見が大分舞鶴に2―1で競り勝って優勝した。大会を通して、奥田会長は「選手の表情に野球ができる喜びが表れていた」との印象を抱いたという。
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