そんな伊藤が、東京五輪までに一矢報いなければならない相手が、陳夢。世界チャンピオンの劉詩ブン(雨カンムリに文)、丁寧、孫穎莎、王曼ユウ(日の下に立)ら中国の代表クラスを相手に、日本選手では最も高い勝率を挙げている伊藤が、まだ一度も勝っていない。
昨年は2戦2敗。今年もカタール・オープン決勝で1-4だった。「何でもできて穴がない。その意味でやりづらい」という。
26歳、右のシェークハンド。泥臭く、ぎこちなさも感じられる卓球だが、台を縦にも横にも広く使ってミスが少ない。両面に粘着力の強い中国ラバーを貼り、強い回転のドライブを中心にしつつ、巧みな変化をつけてくるのも特徴だ。
身長163センチで肩幅が広く、「体を大きく使うのでどこに来るか分かりづらい」。さらに微妙な「ため」をつくって打つので、球離れの見極めが難しい。
スロースターターで、カタール・オープンでも第1ゲームは伊藤が先取したが、じわじわと陳夢のペースになっていく。「普通はそこからまたガラッと変えて私のペースにできるんですけど、陳夢選手にはそれをさせてもらえない」。伊藤が多彩なレシーブをしにくいサービスも手ごわい。
前陣でバック対バックの応酬なら引けを取らないが、陳夢がやや下がってフォア対フォアのラリーになると、伊藤がブロックで止めるのがやっとの場面も増える。「ドライブが不思議な重さ。重いだけじゃないみたいな。あれを打ち返したいです」。相手が自信を持つボールを打ち抜き、計算を狂わせれば形勢が変わりそうだ。
他の選手との対戦を見ると、精神面はさほど強くないように見える。「私と対戦する時は自信があるんですかね」というが、「1回勝ったらガラッと変わるかもしれない」と伊藤。
五輪の金メダルとともに、競技生活を通して「負けない選手」を目指すうえでも、「天敵」はつくれない。策は練ってきた。「あの独特のボールに対しても、しっかり自分のボールにして打ち込めるように、そういう練習をしているので、逆に早く試合したいです」
伊藤が陳夢に1勝することで、中国の団体戦の戦い方、あるいはそれ以前に五輪代表選考への影響もあるかもしれない。
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