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「学びと発達の権利」とは? 福祉の国、スウェーデンの特別支援学校事情

サリネンれい子(ジャーナリスト/スウェーデン在住)

 「福祉国家」と言われるスウェーデン。障害を持つ子どもと家族に対する福祉にも目を見張るものがある。日本で特別支援学校、聾(ろう)学校の教員として約3年働いた後、スウェーデンでも同じく特別支援学校の教員として11年勤務している筆者が、両国の福祉制度とその根底に流れる考え方を比較してみたい。

「知的障害児」のみに特化したスウェーデンの特別支援学校
 「特別支援学校」というと、どのようなものを思い浮かべるだろうか。試しにデジタル大辞林を調べてみると、「心身に障害のある児童・生徒に対し(中略)必要な知識・技能などを養うことを目的とする学校」とある。知的障害を持つ子および身体障害を持つ子両方のためのもの。おそらくこれが日本での特別支援学校のイメージだろう。かつては盲学校、聾学校、養護学校に分かれていたものが、2007年に一本化されたという歴史もある。

 スウェーデンでは大きく異なっている。「特別支援学校」に通えるのは「知能指数(IQ)70以下の知的障害児」のみだ。では視覚障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱などの「身体的障害」を持つ児童や生徒たちはどこに通うのかというと、一般の小学校・中学校・高等学校だ。スウェーデンでは授業を理解することに関して、知的な問題がないのであれば、普通の学校に通う「権利」がある。身体的障害を持つ子もそうでない子もできる限り分離することなく、共に学ぶことで人は成長する。子どものころから障害を持つ子とも深く接することで、大人になっても彼らと隔たることなく付き合える。そんな考え方がベースにあると言えるだろう。

 例外は聴覚障害で、手話が言語の一つとして認められているスウェーデンでは、英語で授業が行われるインターナショナルスクールのように、手話での授業が聾学校で行われている。

 また発達障害を持つ児童・生徒にも、特別な支援や合理的配慮などの個への支援体制が確立されている。発達障害児に限っては、特別なクラスや障害に特化した学校などもあるが、これらの学校は特別支援学校ではない。

 ちなみにこれらのなんらかの障害を持つ子が一般の学校に通う際には、彼らをサポートするアシスタントが、本人またはクラスに、学校または役所から用意・提供される。

 ではなぜ「知的障害児」のみが特別支援学校に通うのか。彼らだけが差別されているのかというと、そうではない。これもまた彼らの「権利」を守ることに目的がある。

 それは「学びと発達の権利」である。

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