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識者が語る東京五輪の在り方 「オリンピックたるゆえん、大事に」「選手の発表機会を」

舛本直文さん「無観客は五輪運動の敗北」

 来夏に延期された東京五輪をめぐって、計画の簡素化が検討されている。世界的な新型コロナウイルス感染の収束が見通せない状況下、コロナ対策とコスト削減の観点が背景にある。こうした中、国内プロスポーツなどが試みている観客を入れない開催はオリンピックに当てはまるのか、その是非は、五輪運営の在り方は―などについて識者はどう考えているのか。五輪の研究などで知られる東京都立大・武蔵野大客員教授の舛本直文さんと、元柔道女子トップ選手で日本オリンピック委員会(JOC)理事を務める山口香さんにこの夏、意見を聞いた。(時事通信運動部 山下昭人)

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 「オリンピックがオリンピックであるゆえんは、オリンピズムしかないだろうと思います。オリンピズムというものは、心身ともにバランスの取れたアスリートに、若者になってほしいという教育思想がまずあります。そういう若者たちが世界中から集まって切磋琢磨(せっさたくま)して友情を育むのですが、そこで選手村に滞在するというポイントがもう一つある。そしてお互いに平和な世界をつくることに貢献できるという平和思想ですよね。選手村での交流や聖火リレーや開閉会式で平和のメッセージを全世界に伝えることも必要でしょう。文化プログラムもアスリートや関係者が異文化理解をしていくもので、欠かせられない。国際競技大会プラス、オリンピズム。これがオリンピックたるゆえん」

 「それが無観客になった場合、きちんと世界に伝わるのだろうか。オリンピックたるゆえんは何なのか、との議論が少ないのではないか。お金をこれだけ掛けたのだから開催せざるを得ない、(あるいは)これ以上お金を掛けたら無駄遣いだと、どうもお金の論理ばかりになっている気がします」

 「国際オリンピック委員会(IOC)も自分たちの存在意義に関わるようなことを発信していないのも事実でしょう。環境格差とか貧富の差の問題にIOCは貢献しないといけない。国連とSDGsでも連携すると言っているのですから。IOCの平和運動が「積極的平和」まで含むものであるべきだとしたら、無観客の状況でやること自体はIOCのオリンピックムーブメントの手落ち、という思いがあります。オリンピックムーブメントの敗北と言われても仕方がないかなという気もしています」

 「将来の在り方として、オリンピックの持ち回りをやめてアテネ恒久開催を考えたらどうか。オリンピックの聖地をアテネにする。余分なお金が招致の段階から不要になりますし、競技施設の名前をトップスポンサーがネーミングライツでかぶせる。IOCは競技運営のお金は全部出す。4年に1度しか使わないので、その間はギリシャ国民が無料で素晴らしい施設を使える。選手村はアテネの大学の寄宿舎。冬季五輪はIOC本部がある(スイスの)ローザンヌでいいじゃないですか。肥大化して、商業主義になりすぎたオリンピックに歯止めが掛かる潮目になれば、それは素晴らしいレガシーになる」

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 舛本 直文(ますもと・なおふみ) 1950年、広島県生まれ。広島大卒、東京教育大大学院体育学研究科修士課程修了。専門分野は五輪研究、スポーツ哲学、文化学などで、五輪に関する著書や論文多数。東京都立大・武蔵野大客員教授の他、日本オリンピック・アカデミー副会長なども務める。

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