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トライアスロン・上田藍、五輪延期も前向きに 度重なる大けがを乗り越えて

今季はまだレースなし

 トライアスロン女子の第一人者で36歳のベテラン、上田藍(ペリエ・グリーンタワー・ブリヂストン・稲毛インター)が1年後に延期された東京五輪で4大会連続の五輪出場を目指す。視線の先には、日本トライアスロン界にとっても悲願のメダル獲得がある。昨年は2度にわたる大けがを克服。逆境を乗り越えた経験や東京五輪への意気込み、そして競技を問わず新型コロナウイルスの影響を受けた中高生選手への思いなどを聞いた。(時事通信運動部 岩尾哲大)

◇ ◇ ◇

 ―新型コロナウイルスの感染拡大による自粛期間をどう過ごしたか。

 3月下旬から長野県小諸市でトレーニングをしていた最中に緊急事態宣言が出た。拠点は千葉だが、長野にずっといた方がいいという状況になった。宣言が出てから1カ月ぐらいは、インドアでの自転車のトレーニングなど、できることを継続していた。長野県の緊急事態宣言が解除されてから久しぶりに外での自転車トレーニングを始めた。インドアと外は違う。外で練習をすると、坂道で息切れをしてペースを上げられなくて、体力が落ちているなと感じた。

 ―レースから遠ざかっているが。

 これだけ空くのは初めて。今年はまだレースに一戦も出ていない状態。トライアスロンは3種目の複合競技で、種目の切り替えはレースでしか経験できない。出場できるレースが近くなれば、スイムからバイク、バイクからランの種目の切り替えに対応できるトレーニングも取り入れていきたいと思っている。

 ―調整は難しいか。

 自分はレースで仕上げていくタイプ。年間通じて15レース以上出ることもある。レースだからこそ追い込める部分もあるし、追い込んで負荷をかけることで、体調もその負荷に耐えられるようになっていく。トライアスロンは自然との闘い。例えばスイムなら、湖、海、川といろんな場所で泳ぎ、水温が低かったり高かったり、波があったりという中で、集団で泳ぐ経験ができるのはレースしかない。

 ―年齢による衰えを感じることはあるか。

 感じていないというのはうそになるが、感じないようにする努力をしている。若い時期は練習後に何もしなくても、寝たら回復していた。その頃とは違い、しっかりとストレッチをしたり、マッサージを受けたり、食事では消化にいい物を食べたりしている。

五輪延期「すぐ受け入れた」

 ―東京五輪の1年延期をどう感じたか。

 3月ごろは世界中が大変な状況になっていた。海外の選手ともつながりがあるので、ロックダウンなどの話を聞いて、トレーニングもできない状況なのだと分かった。今年五輪が開かれるなら、海外の選手が日本に来るのは難しいのではないかとも感じていた。延期が決まった時は、中止ではなく開かれる方向で考えられているのだと思い、ほっとした。

 ―延期を負担に思うベテランは多いが、前向きに捉えられたと。

 すぐに受け入れることができた。新型コロナと状況は違うが、昨年、2回大けがをしたことで、やれることをこつこつ積み上げていく経験ができた。できないことばかりに目を置くのではなくて、できることを最大限生かしていこうというマインドを去年のけがで学べた。周りの方に「延期になって大変だね」と声を掛けていただくこともあったが、1年後に向けて自分をどう高めていくか考える方向に持っていくのは、全然大変ではなかった。

V字以上の「W字」復活

 ―昨年の2度の大けがについて。3月の世界シリーズ、アブダビ大会ではバイクの落車に巻き込まれた。

 外傷性くも膜下出血、左肺の気胸や、脾臓(ひぞう)の裂傷、左手の擦過傷を負った。(現地で)手術、治療をしてから帰国した。1カ月半後にはレースに戻り、けがを治しながら出ていた。なかなか結果が出なかったが、6月にワールドカップ(W杯)とアジア選手権で優勝できた。

 ―2度目の大けがは。

 7月のドイツの大会(世界シリーズ、ハンブルク大会)で左足の足底けん膜を断裂した。肺気胸の手術の影響で、左側の上半身の動きが悪くなっていた。それを左足の蹴りだけで補ってパフォーマンスを戻して、結果を残していた。私の中では、タイムがどんどん戻っていくので回復していると思っていたが、体が悲鳴を上げた。左足にそんなに負荷がかかっていると気が付いていなかった。(ランの)ラスト300メートルで後続を引き離そうとスパートをかけた時に、パンって音がした。体の異変をだましてパフォーマンスを出していたので、しわ寄せが来た。

 ―どのようにして再び復活したのか。

 足底けん膜の断裂は本当にまれなけがで、リハビリをとことんやった。それで体の使い方がうまくなり、バランスが整った。また、時間をかけて、自分の筋肉の繊細な使い方を学習し直すことができた。そのおかげで、まだ100%けんが再生していなくてもパフォーマンスは戻すことができ、11月のW杯リマ大会(ペルー)で優勝した。「V」字ではなく「W」字の復活ができた。

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