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資金と情報を独占する「感染症ムラ」 新型コロナウイルスと臨床研究

超過死亡のデータ

 一方、「感染症ムラ」は部外者には冷たい。渋谷健司キングス・カレッジ・ロンドン教授は「超過死亡の調査をしようとして、日本の閉鎖的体質を痛感しました」と言う。

 超過死亡は、人口動態統計さえあれば誰でも推定できる。日本で超過死亡を推定している感染研は、独自の方法でやっており、そのことを英文論文として発表していない。

 渋谷教授は、超過死亡の推定に用いているデータの提供を感染研に求めたが、「超過死亡の推定に用いている死亡数の実数は公表していない。データの詳細を知りたい場合には、データ利用申請が必要になり、その手続きには数カ月かかる」と担当者から言われた。

 その後、感染研は対応を変えたようで、「出す義務はない」と返答してきた。超過死亡のデータは、統計法に基づく調査ではないので公開義務はないというのが理由らしい。

 超過死亡については、さまざまな憶測が広まっている。元朝日新聞記者である佐藤章氏は「『超過死亡グラフ改竄』疑惑に、国立感染研は誠実に答えよ!」(『論座』2020.5.27)という文章を公表している。一読をお勧めする。

 この疑惑を晴らすには、感染研が論文として解析結果を発表する、あるいはデータを公表し、第三者の解析に委ねるのが一番なのだが、そのような動きはない。

 新型コロナウイルスの研究で、感染研の閉鎖的な体質を表す事例は枚挙にいとまがない。もう一例、ゲノム分析結果についてご紹介しよう。

 新型コロナウイルスは突然変異を繰り返し、その性質を変えていく。世界中の研究者が新型コロナウイルスのゲノム配列を解読し、その情報を共有している。

 そのデータベースが「GISAID」だ。06年の鳥インフルエンザの流行をきっかけに議論が始まり、08年5月の世界保健機関(WHO)の総会で設立が決まった。

 新型コロナウイルスに関する情報も整備しており、6月1日現在、約3万5000のゲノム配列が登録され、情報工学者が中心となって分析を進めている。

 日本から登録されているのはわずかに131で、感染研が96を占める。このうち71は検疫所で採取されたもので、直近では2月16日に取得したサンプルを5月29日に登録している。

 感染研は、前述のように「新型コロナウイルスSARS-CoV-2のゲノム分子疫学調査」を実施し、3月以降に欧州から流入したウイルスが国内で流行したと主張している。

 それなら保健所や永寿総合病院、中野江古田病院などの院内感染を起こしたウイルスのゲノムデータを登録すればいい。世界中の研究者がさまざまな角度から分析できる。

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