資金と情報を独占する「感染症ムラ」 新型コロナウイルスと臨床研究

論文発表の重要性

 では、日本国内ではどのような研究機関が研究をリードしているのだろうか。

 をご覧いただきたい。最も多く論文を発表しているのは北海道大学で、次いで東京大学、横浜市立大学と続く。

 特記すべきは、新型コロナウイルス対策の中心と考えられている国立感染症研究所(感染研)から、わずか3報しか論文が出ていないことだ。

 医療ガバナンス研究所を中核としたわれわれのグループでさえ8報の英文論文が受理され、数報を投稿中である。感染研は豊富な資金を抱え、多くの人材をそろえているのに、この少なさは異様といえる。

 感染研が研究をしていないわけではない。

 ホームページには「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報ページ」があり、「ダイヤモンドプリンセス号環境検査に関する報告(要旨)」や「〈速報〉長崎市に停泊中のクルーズ船内で発生した新型コロナウイルス感染症の集団発生事例:中間報告」「新型コロナウイルスSARS-CoV-2のゲノム分子疫学調査」などの成果を公開している。

 分子疫学調査に関しては「国内のコロナ、武漢でなく欧州から伝播? 感染研調べ」(朝日新聞4月28日)とメディアで広く報じられたため、ご記憶の方も多いだろう。

 ところが、このような研究の多くが論文として学術誌に発表されていない。これは由々しき事態だ。科学の基本は反証可能性だが、論文として発表しなければ、誰も反論できない。

 科学界は反証の機会を担保することに最大限の注意を払っている。『ネイチャー』や『ランセット』などの総合科学誌、臨床医学誌は、「レター」や「コレスポンデンス」などの欄を設け、掲載された論文に対する意見や反論を募集している。

 中には「公開質問状」のような形で意見を表明する専門家もいる。一例を挙げれば、5月22日の『ランセット』に米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院の医師たちの研究が掲載された。

 この研究では、新型コロナウイルスの治療薬として、マラリア治療薬のヒドロキシクロロキンとクロロキンの効果を調べ、効果がないばかりか死亡が増えたと報告した。

 しかしながら、米ハーバード大学や英インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者たちが、データを提供した国と病院に関する情報がないことなど、研究方法の問題を指摘する公開質問状を投稿した。

 医学論文では、一点でも問題があれば、研究全体が信頼できなくなる。『ランセット』編集部も、即座に調査し、問題を認めた。そして論文を撤回した。これが科学の世界だ。

 このような対応ができるのは、研究成果を論文という形で公表し、その中で第三者がチェックできるよう、方法を明記しているためだ。感染研がホームページで発表する「中間報告」や「要旨」ではこうはならない。

 感染研が公表しないのは、研究者のレベルが低いからではない。情報を開示することで、厚労省の政策が批判されるのを恐れるからだろう。

 感染研が論文を書くと、なぜ厚労省が批判されるのか。それは、日本の感染症対策を仕切るのが、厚労省健康局結核感染症課、感染研、保健所・地域衛生研究所だからだ。

 実は、海外から新型コロナウイルスやエボラウイルスのような病原体が入ってきたとき、こうした組織が中心となって対応することは感染症法で規定されている。

 感染症対策は「公衆衛生」と称され、一般の臨床医療と切り分けられてきた。前者は保健所・感染研、後者は医療機関が担当し、予算もデータベースもすべて別。つまり、縦割りとなっている。

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