新型コロナウイルス流行の第1波がほぼ収束し、検証が進んでいる。
安倍晋三首相は「わが国の人口当たりの感染者数や死亡者数は、G7、主要先進国の中でも圧倒的に少なく抑え込むことができている。これは数字上明らかな客観的事実です」と日本の対応を誇る。
強制力を伴わない要請にもかかわらず、国民の自粛によって感染拡大が収束したことを「日本モデル」と胸を張る。
低い国民の評価
ところが、国民の評価は低い。世論調査では、新型コロナに対する安倍政権の対応を60%の人が「評価しない」と回答している。
なぜ、こうした乖離(かいり)が生じるのだろうか。私は、政府と国民の信頼関係の欠如が影響していると考えている。
残念だが、日本では国民の政府への信頼度が低い。経済協力開発機構(OECD)の調査によれば、日本人で政府を信頼すると回答したのは37%にすぎず、独仏をはじめとした欧州諸国はもちろん、韓国より低い。
公衆衛生分野での介入の成否は、政府と国民の信頼関係と相関することが知られている。国民のワクチンへの信頼度は、政府への信頼度と相関する。英科学誌『ネイチャー』は2019年6月19日号の記事で「日本は世界で最もワクチンが信頼されていない国の一つ」と紹介している。
このことは、新型コロナウイルス対策にも影響しそうだ。
欧州では新型コロナの致死率と政府の信頼度が相関する傾向がある。致死率が低いドイツやポーランドは国民の政府への信頼度が高く、逆に致死率が高いフランス、イタリア、スペインは信頼度が低い。政府を信じなければその強制的な措置には従えないので、これは当然かもしれない。
欧米諸国と比べれば、日本の致死率は低いが、これは流行したウイルスの型や生活環境などの違いもあって、一概に比較できない。
アジア諸国と比べた場合、日本の致死率は高い。アジア諸国の中で日本は政府への信頼度が低く、このことが影響しているのかもしれない。
ではどうすればいいのだろう。信頼関係を醸成するには、正確な情報を国民と共有し、広く議論するしかない。その点で、専門家会議が議事録を作成していなかったことなどは論外だ。
加藤勝信厚生労働大臣は「第1回会議で、専門家に自由かつ率直に意見してもらうため、発言者が特定されない形の議事概要を作成する方針を説明し、了解された」と発言しているが、もし、匿名でしか発言できない専門家がいるとすれば、委員を降りてもらえばいい。どうして、こんな理屈がまかり通るのだろうか。
この問題は、日本の医療行政の宿痾(しゅくあ)を象徴している。
国民そっちのけで、政府をはじめ提供者の都合ばかりが優先されている。新型コロナウイルス対策には、世界中が優秀な人材と巨額の資金を投入しているのに、これでは世界の潮流についていけない。
本稿では、ガバナンスの視点から新型コロナウイルス問題を論じたい。
解説◆新型コロナ バックナンバー
新着
会員限定