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「東京五輪開催、今の状況では非常に難しい」 公衆衛生学の専門家・渋谷健司教授に聞く

ワクチン「五輪までには間に合わないと思う」

 公衆衛生学の専門家で英キングス・カレッジ・ロンドンの渋谷健司教授がこのほど、時事通信のオンラインインタビューに応じた。来夏に延期された東京五輪は開催できるのか。開催する場合の条件は何か。ワクチン開発の見通しや、日本で感染が比較的抑えられてきた要因を含めて語ってもらった。(聞き手 時事通信社ロンドン特派員・長谷部良太、運動部・浦俊介 インタビューは2020年7月3日実施)

◇ ◇ ◇

 ―来夏の東京五輪は開催できると考えるか。

 今、東京で感染者が増えてきているが、それは予想されたこと。日本は(緊急事態宣言を)解除して安心感が漂っていて、「自粛は必要なかった」とか、「コロナは何とかなる」というような楽観論が出ていたと思う。ただ世界に目を広げると、「これから最悪の事態になる」と言った世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長の言葉通り、中国や東アジアから欧米、南米、南アジアと(ホットスポットが広がり)、感染者数のペースも上がっている。全く世界では(感染拡大は)終わっていなくて、むしろペースが上がっている。(日本)国内でも、もちろんウイルスを完全になくすのは中国のようなことをしなければ難しい。東京のようなところではなかなか、社会的距離とか3密を完全には防げないところもあるので止められないし、国外でもまだまだパンデミックは広がっていく。これから第2波が懸念される中、非常に五輪(の開催)は難しいんじゃないか。

 ―五輪開催は難しい。

 その理由としては、第1波の余波が再燃しているし、それをコントロールできたとしても第2波がある。経済を開こうとしているが、開けばまた人も入ってくる。五輪を開けばウイルスも一緒に入ってくるので、今の状況では非常に難しい。ほぼ困難だと思う。

 ―それでも関係者は開催を前提に動いている。開催するならどのような条件下で行われるべきか。

 条件としては、まずは(国外から)来る方には検査を徹底することが大事。ただ、検査しても漏れがある。開くとしたらさまざまな条件をクリアしないといけない。(それは)1カ国でも難しいし、世界中からとなると非常に困難。すごい検査体制で定期的に見なければならないし、観光客の問題もある。競技場の条件や観客を入れるのかとかを考慮すると、オペレーションのハードルは非常に高い。

 ―五輪開催可否を判断すべきタイミングは。

 科学的な面だけでなく、大会組織委員会や選手、競技面などいろいろなファクターが絡んでくる。少なくとも第2波がこれから来て、南半球に進んで行くことを考えると、感染流行の予測から言えば(来夏への延期を決めた開幕4カ月前と)同じような時期になるのでは。

 ―ワクチンの開発状況は。

 「最短で18カ月」というのは本当に最短だと思うし、(世界中に)行き渡るまでは相当な時間がかかると思う。だから五輪までには間に合わないと思う。年内に承認されるかもしれないが(可能性は)低いし、来夏に間に合わせて量産するのはほぼ無理だと思う。

 ―ワクチンの承認と量産は東京五輪開催の必須条件と考えられるか。

 現実的にワクチンが全員に行き渡ることは来夏まではないと思うので、唯一のやり方としては検査を定期的に、繰り返しやるしかない。それでもオペレーションは大変。1日に何千人、何万人とやらないといけない状況になってくる。水際対策となると検査しかない。五輪のためというより、(海外から人が)入ってくるための条件になる。

 ―競技によってリスクの大きさは異なる。

 大声を出して唾が飛ぶ環境、特に室内競技は非常に大きい。ただ、競技によって、場所によっても全然リスクが違う。だから五輪で全ての競技が同じリスク管理をするのは違う。サッカーなどはコンタクトプレーがあるにせよ、検査をしていれば大丈夫だと思う。高校野球も観客を密にしなければ全然できると思う。一番駄目なのは一律で自粛するとか、一律で同じ行動を取ること。個別に対応していかないと、できるものもできなくなってしまう。それが個人的には問題かなと思う。

 ―五輪と言えば選手村。東京五輪が開催できた場合、大勢が集まる選手村を設置していいのか。

 五輪の代表選手は若くて元気な人が多い。だから(感染しても)無症状の人が多く、自覚なく(感染を)広げていく可能性は高い。症状がないので重症化するリスクは少ないが、広がっていく可能性はある。だからしっかりと社会的距離を保つことを全員が守れるか。日本人だけでも東京では難しいのに、世界のいろんなところから来る人が守れるかというと難しい。集団でご飯を食べないとか、徹底的に管理しないと難しい。コストやオペレーション面のハードルは高いと思う。

 ―東京五輪は真夏の開催。季節と感染拡大の関連性は。

 いずれはインフルエンザのように季節的になると言われているが、今のところ季節性は明確ではない。ただ、冬の方が感染しやすいので第2波は秋以降と言われてるが、暑いから広がらないということもない。傾向としては乾燥した冬の方が広がるが、夏でも安心できない。

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