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視界から消える植草の中段突き 【五輪のミカタ この技このルール】(12)

技と笑顔で空手を「発信」

 東京五輪で追加競技として行われる空手には、組手と形がある。組手は男女各3階級が行われ、女子で最も重い61キロ超級で金メダルを狙うのが植草歩(JAL)。得意技の「中段突き」は相手の視界から消えることもある必殺技だ。

  ◇  ◇  ◇

 主要な国際大会は男女各5階級で行われる。植草は女子で最も重い68キロ超級の世界ランキング6位。日本空手界のPR役としても注目される28歳だ。競技を始めたきっかけは、小学3年時の友人との何気ないやりとりだった。

 午後5時の鐘が鳴り、外で一緒に遊んでいた幼なじみが「帰る」と言いだした。「まだ遊ぼうよ」と引き留めたが、「今日は空手の練習があるからさ。歩もおいでよ」。誘われるがまま、近所の道場に向かった。

 第一印象は「全然、面白そうじゃない」。少し退屈し始めた少女の心をつかんだのが、ミット打ちで弾けるように響く大きな音だった。「バーンって音に、『うわ、気持ちいい』って思った。すぐ父に『これやりたい』とお願いした」

 千葉・柏日体(現日体大柏)高時代に全国高校総体で3位に入るなど実績を残し、名門の帝京大へ。だが、入部した日にやめたくなった。「練習はきついし、初めての全寮制で慣れない環境も苦しくて。自分自身(の精神面)がすごく弱かった」

 それでも、「あと1週間でやめよう」と我慢を繰り返すうち、徐々に意識が変わったという。高校時代の恩師からの助言も、気持ちを強く保たせてくれた。「ちょっとずつでもいいから(困難を)克服していこうと思えるようになってから、どんどん練習が楽しくなって、どんどん強くなっていった」

 組手は1対1で争い、3分間の制限時間内により多くポイントを取った方が勝つ。舞台は8メートル四方のマット。技は種類によって1~3ポイントが与えられる。上段と中段への突きは「有効」と呼ばれ、1ポイント。中段への蹴りは「技あり」で2ポイント。大技である上段蹴りや相手を倒しての突きが決まると「一本」で、最大3ポイントとなる。

 制限時間内に8ポイント差がついても勝負が決まる。同点の場合は原則、先取点を取った方が勝者になるが、ともに無得点の場合は審判5人が判定で決める。試合中、コーチはビデオ判定を求めることができる。競技エリア外に出たり、相手の道着をつかんだりするなどの違反行為を繰り返すと失格になる。

 東京五輪が3階級で行われるのは選手総数に1万500人の上限があり、各競技・種目の選手数を抑える必要があるから。各階級の代表枠もわずか10という狭き門だ。

 ただ、日本は開催国枠が1ずつある。本来68キロ超級の植草は61キロ超級で争うことになり、体格やパワーで優るケースが増える。半面、軽量な選手は動きが素早いので、一概に体格で有利になるとは言えない。

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