2020年7月10日土曜日の朝。予定より3カ月遅れて始まったサッカーのリーグ戦を楽しむ子どもたちの姿があった。観戦する保護者の中に、マスク姿の人はまったくと言っていいほどいない。
その前日の金曜日。週末を前にレストランやバーで多くの人たちが談笑を楽しんでいた。
3カ月以上にわたって失い続けてきた「日常」をほぼ取り戻し、人々は「普通に日々を過ごせることの喜び」を満喫している。
これが現在のオーストラリアの姿である。
…と言い切るのには少し無理がある。上記は豪州のほとんどの場所での現状ではあるが、「全土」ではないからだ。多くの州・準州・首都特別地域は新規の市中感染者がほぼ1カ月にわたり連日ゼロが続くのに対して、メルボルンを州都とするビクトリア州だけ7月10日の発表で288人、11日には216人、12日には273人、13日には168人と多少の増減はあるが、突出した数字を示しているからだ(またニューサウスウェールズ州の国内最大都市シドニーでも小さなクラスターが発生し、13日には14人の新規感染者が報告された)。
海外でも日本でも、感染者数の多い所と少ない所の「まだら」が生じているが、ここまで完全に二分化している例は少ない。
この異常事態がなぜ起こったのか。その理由も興味深いが、今回はとりあえず「なぜビクトリア州以外は感染ほぼゼロにたどり着けたのか」について考えてみたい。
驚くべきことにその豪州ではマスクをする人がほとんどいない状態で、感染拡大を防ぐことができた。当初は「不要」「感染防止には役立たない」としていながら、感染爆発後に「飛沫(ひまつ)拡散を防止するのにマスクは有効」と態度を一転させた欧米諸国とは対照的な道筋だ。
なぜ豪州の多くの州では「マスクなし」で感染ゼロにたどり着けたのか。科学的な論考が出るにはまだしばらく時間がかかるだろうから、筆者なりに理由を挙げてみたい。
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