内戦が続くミャンマー西部ラカイン州などで、政府の指示でインターネット回線が遮断されてから、2020年6月末で1年がたった。国軍と激しい戦闘を繰り広げるラカイン族系武装勢力の「アラカン軍」の軍事利用を防ぐという理由だが、市民の自由な情報アクセスを制限していることから市民団体や欧米諸国から強い批判を浴びている。6月下旬には、ヤンゴン中心部でネット遮断に抗議した市民活動家をミャンマー当局が摘発。15年の総選挙で圧勝し、民主化の実現と軍人支配の終えんを掲げて誕生したアウン・サン・スー・チー政権だが、その民主化の在り方に懸念を示す声も強まっている。
横断幕が刑事事件に
「戦争犯罪を隠すためにインターネットを遮断しているのか」。詩人で市民活動家としても有名なサウン・カー氏は、このメッセージを訴える横断幕を歩道橋にくくり付けたことで罪に問われている。今年7月7日に行われた初公判の終了後、サウン・カー氏は「現行の法律がおかしいことに加え、自分はその法律にも違反していない」として、平和的集会法違反で起訴されたことの不当性を訴えた。
実はサウン・カー氏がこうした抗議活動で罪に問われることは初めてではない。軍政の系譜を引き継いだ前政権時代には、当時のテイン・セイン大統領をやゆする詩を発表したことで逮捕、有罪判決を受けた。そして、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が率いる国民民主連盟(NLD)政権となってからも、カチン州の内戦に反対する集会を開いて起訴されている。
今回、サウン・カー氏をはじめ内外の市民団体などが批判しているのは、内戦をめぐってラカイン州とチン州で2019年6月以降、スマートフォンなどでインターネットに接続できなくなっているからである。特に、新型コロナウイルスの感染が拡大した今年3月以降、「ウイルスを防ぐ情報が伝わらない」として、欧米諸国や国連からも抗議の声が上がっている。
強い批判を受けたミャンマー外務省は今年7月8日、「アラカン軍がインターネットを介して行う攻撃や誘拐、地雷の設置などを防ぐために必要な措置で、状況が改善すれば解除する。コロナ対策には力を入れているので問題はない」などとする声明を発表。あくまで一時的な措置だと強調して火消しに躍起になっている。
新着
会員限定