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夢舞台の切符が白紙に…空手五輪選考やり直し、選手の本音は?

残り1大会、ランク入れ替わりも

 新型コロナウイルスの感染拡大による東京五輪の1年延期は、アスリートの人生を大きく狂わせた。空手も例外ではない。いったん確定した組手の男子67キロ級、女子61キロ級の東京五輪日本代表が再選考となる異例の事態が生じた。2年近く世界各地の国際大会を転戦し、ようやく手にした夢舞台への切符が無情にも消えてしまった。選手は複雑な思いを胸にしまい、来春の最終選考会に向けて必死に汗を流している。(時事通信運動部 青木貴紀)

◇ ◇ ◇

 新型コロナの世界的流行が選考の混乱を招いた。日本勢にとって最後の予選大会となるはずだった今年3月のプレミアリーグ・ラバト大会が中止。世界空手連盟(WKF)はその時点での五輪ランキングを基に、男子67キロ級は佐合尚人(28)=高栄警備保障=、女子61キロ級は染谷真有美(27)=テアトルアカデミー=に出場資格を与えると発表した。

 ところが、その後に五輪延期が決定。WKFは一度与えた出場資格を白紙にした上で、未消化分の予選大会を来春実施することを決めた。日本勢は東京五輪の全種目で1枠ずつの開催国枠が与えられ、五輪ランキングの最上位者が出場資格を得る。男子67キロ級は佐合と篠原浩人(31)=マルホウ=、女子61キロ級は染谷真と森口彩美(24)=AGP=が僅差で争っており、残り1大会の結果次第では両者の五輪ランクが入れ替わる可能性がある。

 東京五輪の日本代表が再選考となるのは、全競技を通じて初めてのこと。男子形で世界選手権3連覇中の喜友名諒(劉衛流龍鳳会)、女子形の清水希容(ミキハウス)ら他の6種目で代表に確定していた選手は変動がないが、再選考となる2階級の選手に与える影響はあまりにも大きい。

「また1年…」「チャンスつかむ」

 佐合は本音を漏らす。「想像はしていたことだけど、ちょっと残念な気持ち。ショックがないといったらうそになる。延期になって、『正直長いな、また1年あるのか』という気持ちが強かった」。選考レースを含め、佐合の本来の階級は60キロ級。ただ、五輪本番は一回り体格の大きい67キロ級と統合されるため、五輪代表に決まってからはウエートトレーニングなどで増量に励んでいた。来春の最終選考会は再び減量して、60キロ級で臨む必要がある。

 五輪延期が3月下旬に決まってから、WKFが新たな予選方式を発表するまで約2カ月もかかった。佐合は「練習はしていたけど、不安ばかりで目標がなかなか定まらなかった。どっちでもいいから早く決めてくれ、とモヤモヤしていた」と振り返る。再選考が決まり、「一瞬落ち込んだ」後、腹をくくった。応援してくれる家族や友人らのことを思い、「出場権を勝ち取ることが恩返し」と力を込める。

 佐合と争う篠原も、再びめぐってきたチャンスに驚きを隠せない。「自分の挑戦は終わった、(佐合の)内定が覆ることはないと思っていた。あり得ないことが起きている」。夢破れ、今年限りでの引退を考えていたが、母が「最後まで何が起こるか分からない」と励まし続けてくれた。「このチャンスがはい上がらせてくれた。必ずつかみ取るしかない。五輪のメダルを母にかけてあげたい」と意気込む。

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