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新型コロナで激変するオーストラリアの「移民問題」

「環境」が感染爆発をつくり出した部分もあるが…

 そうした背景から考えると、メルボルンの感染爆発は住民たちのせいとは言えない部分も多い。一戸建てよりも「3密」ができやすいのは、公共団地のみならずあらゆる高層の集合住宅の宿命だ。一軒一軒に住む人数が多いのは、より広い住宅を難民や亡命希望者に供給できなかった政府のミスでもある。

 同じ国からの移民や難民、亡命希望者同士が異国の地で協力し合い、母語で語り合い、時にはパーティーで騒ぎたくなるのは十分理解できる。筆者の一家は周りに日本人がほぼいない、白人ばかりのエリアで暮らしているが、日本人の移住仲間や駐在員たちとつくる大学の同窓会などで、日本語でバカ騒ぎすることをずっと楽しみの一つにして暮らしてきた。

 だが、そうした立場が理解できるのは、私も異国の地で、母語とは違う英語でコミュニケーションを取りながら暮らす移住者の一人だからかもしれない。

 一方、人口の多数を占める英国人やアイルランド人を祖先とするヨーロッパ系(白人)のオーストラリア人にとってはどうだろうか?

オーストラリア人に広がりつつある「嫌移民・難民」感情
 実は、オーストラリアの各都市でも毎週末のように「BLM(黒人の命は大切)デモ」が行われている。このデモでは、オーストラリア国内で「黒人」と見なされる先住民族アボリジニのみならず、移民の権利も主張されている。つまり「ヨーロッパ系オーストラリア人以外の命も大切にしろ」という意味合いが強い。

 ところが、このBLMデモが、ビクトリア州での感染拡大の引き金になった可能性が出たことから、状況が変わってきた。

 ビクトリア州の保健関係者は7月中旬、「メルボルンで行われたBLMデモと高層公共住宅での感染爆発との関連性」を認めた。ところが同州保健福祉省は「BLMデモ参加者で、コロナウイルス感染者になった人の中に、高層公共住宅の住人がいるかどうか」については「言及を拒否する」という、極めて微妙な立場を取った。

 こうした「グレー」な状態では、人々は「かなり怪しい」と感じるのも当然だろう。そして「移民や難民、亡命希望者は迷惑」と感じるようになるのも。

 実際、「コロナが完全に終息したわけではないこの時期にデモをしなくてもいいだろう」とか「BLMは分かるが、今はALM(ALL LIVES MATTER。『すべての命が大切』の意味)だと考えられないのか」という声も耳にする。

 また、カフェで新聞を読んでいた高齢者が、「WE ARE HUMANS」(「われわれは人間だ」。つまり「人間らしく扱え」の意味)と書かれた模造紙のようなものを持って警察官たちと対峙(たいじ)する移民の写真に指を突き刺しながら、「だったら人間らしく振る舞え」と苦虫をかみつぶしたような表情でつぶやいたのも印象的だった。難民や亡命希望者にわれわれは手を差し伸べているのに、「恩をあだで返すとは何事だ」という気持ちだろう。

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