会員限定記事会員限定記事

遠出より楽しい梅雨時の雑草散策 嫌われ雑草の知られざる魅力

岩槻秀明(自然科学ライター)

 都道府県をまたぐ移動が解禁されたとはいえ、依然として遠出はしづらい今日この頃。梅雨時ともなればなおさらだ。そんな今こそ、身近な自然に目を向けてみるのはどうだろうか? 人にも負けず、雨にも負けず、足元で懸命にしたたかに生きる雑草たちの知られざる姿に迫ってみたい。

海外では意外な人気がある日本のドクダミ
 日本の雑草はなぜか総じて人気がなく、邪魔者・くせ者扱いされる傾向が強い…。これは私が常々思っていることである。「梅雨時の草花と言えば?」と聞けば、ハナショウブやタチアオイなど園芸種や外来種の名前を挙げる人が大半であろう。雑草(身近な野の花)の類では、公園の芝生に交じって咲くネジバナが辛うじて人気花のグループに入るだろうか。

 一方で同じ梅雨時に咲く花でありながら、不人気どころか目の敵にされている雑草も少なくない。その代表格ともいえるのがドクダミだろう。

 ドクダミはジメジメとした薄暗い場所を好み、地下茎をどんどん張り巡らせながら旺盛に繁殖する多年草だ。その繁殖力はすさまじいものがあり、この時期は辟易(へきえき)させられる方も多いであろう。しかも全体に独特の臭いがあり、素手で草むしりをすると、石けんで洗ってもしばらくは残り香に悩まされる。

 ただ、世の役に立たないわけではなく、「十薬(じゅうやく)」と呼ばれる生薬の原料にもなり、昔は身近で万能な薬草として大変重宝されていた。現代でも健康茶としての人気は根強い。また「食べられる草」でもある。臭いが強いため、下ごしらえが必要だが、さまざまな料理に使える食材だ。

 それに群生したドクダミが一斉開花すると、深みのある緑色の葉の中に現れる白と黄色のコントラストがなかなかに美しい。

 ちなみにドクダミの花には花びらは無い。白い花びらのようなものは、花びらのようになった「総苞片(そうほうへん)」で、本当の花はその真ん中に立つ「黄色い棒」である。ひとつひとつの花はとても小さく、雄しべと雌しべだけのシンプルな構造で、多数の花が集まってひとつの黄色い棒になっている。

 庭造りには「シェードガーデン」という言葉がある。これは日陰を好む植物をうまく活用したガーデニング手法のひとつである。ユキノシタやヤブランといった日本在来の花も多少は使われるが、人気が高いのはホスタ(ギボウシの仲間)やアジュガなどの外来種である。ドクダミに至っては、出てきたら抜くべきという位置付けだろう。

 でも間引き程度にしてシェードガーデンの一員として受け入れてみると、結構いい感じになるのでは、と個人的には思う。ドクダミは海外ではガーデニング素材として人気が高く、特にカラフルな葉をつける栽培品種ゴシキドクダミは、カメレオンの名前で一大ブームが巻き起こったほどだ。

 同じように日陰に生えるものとして、雑草ではないがもっと評価されるべきと思っているものがある。それがコケ植物、特に嫌われ者のゼニゴケである。

 ゼニゴケは人畜無害にもかかわらず、生育場所からか陰湿なイメージがつきまとい、人々には好かれない。しかし、ほとんどの植物が育たないような暗い場所でも平気な上、雑草の繁殖を抑え、地面の乾燥や雨による浸食を防いでくれるので、優良なグランドカバー素材ではないかと思っている。庭をゼニゴケで全部覆ってしまうもよし、ゼニゴケ以外の多様な苔(こけ)を愛でるのもよし、「すみっこ苔庭」とでも銘打ち、苔玉のようにブームとなったら面白そうだ。

新着

会員限定

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ