日本政府は2020年6月18日、新型コロナウイルス感染症対策本部の会合で、ベトナム、タイ、オーストラリア、ニュージーランドの4カ国を対象に、ビジネス客や技能実習生などに限定して出入国制限を緩和する方針を決めた。そして、翌19日にはその第1弾として、ベトナム政府との個別協議でビジネス客などの相互往来を始めることで合意した。
この4カ国が出入国制限緩和の対象に選ばれたのは「感染状況が落ち着き、経済的な結び付きが一定程度ある」と日本政府が判断したからだ。それでは、この4カ国の現状は果たしてどうなのだろうか。
海外書き人クラブの現地在住ライターたちが、「現在の感染状況」「都市封鎖(ロックダウン)状況」「いわゆるトラベルバブル(協定を結んだ国や地域内では入国後の隔離なしで自由に旅行できるようにすること)をどこと結ぼうと考えているのか」「街の人の反応(日本と自由に行き来ができるようにしていいか)」などの現状を報告したい。(各国記事執筆者 古川悠紀、小堀晋一、りんみゆき)
【ベトナム】外国人旅行者歓迎ムードも
世界で猛威を振るう新型コロナだが、ベトナムでは水際対策が成功し、4月17日以降、市中感染は起きていない。世界保健機関(WHO)もベトナムの新型コロナ対策を高く評価している。6月19日時点での累計感染者数は342人。同18日に7人の陽性者が見つかったが、いずれも海外帰国者のため漏れなく空港での隔離に成功した。そして、目を見張るのはベトナムではこれまで死者を出していないということだ。
ベトナムでは4月のほぼひと月を都市封鎖に費やした。段階的に3月中旬からスパやレストラン、カラオケといった密室の空間を持つ業種に対して無期限の閉店を強制し、4月1日からいわゆる「都市封鎖」を実施した。内容としては、(1)3人以上の集まりを禁止(2)外出時はマスクを着用(3)商店に入る前に手を消毒(4)企業のオフィスの使用や工場の操業は禁止にはしないが、1人でも陽性者が出たら、直ちに全面閉鎖する(5)無自覚であっても他人に感染させてはならない―などが挙げられる。
これらは日本での「要請」とは異なり、違反した場合は罰金、もしくは懲役刑が科される。そのかいもあり、5月からは徐々に都市封鎖は緩和され、国内の移動に対して制限がなくなったほか、商店も6月11日付でほぼすべての営業が再開された。6月下旬現在は、店舗独自で入店時に手の消毒やマスクの着用を促すルールを敷いているところはあるが、ソーシャルディスタンスや店内でテーブル席の間隔を空けるといった措置は取られていない。
ベトナムのフック首相は電子ビザ対象の80カ国に対して、7月1日から申請を受け付ける方針を示したが、具体的にいつから入国できるかは決まっていない。
対象国は日本をはじめ、韓国、米国、欧州各国といった広い地域となる。トラベルバブルというには規模が大きいのが気掛かりだが、観光産業はGDP比で7%を占め、2020年には10%を目標として掲げていたため致し方ないのかもしれない。
観光客の受け入れに対して現地のベトナム人は意外にも寛容だ。それだけ外国人観光客で商売が成り立っている店や企業が多いと言える。ただし、観光・ビジネスに関係なく入国する際には新型コロナウイルスの検査を受けて陰性と判定された証明書や詳細な滞在日程の提出など複数の条件が必要と一部現地メディアで議論されている。
(古川悠紀=ふるかわ・ゆうき 文筆家。2011年にベトナムのホーチミンに移住。フリーランスとして観光・ビジネスなど多岐にわたるベトナム関連の記事を執筆。自著に『ベトナムとビジネスをするための鉄則55(アルク)』がある)
新着
会員限定