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医師免許を持つ中距離ランナー広田有紀 東京五輪へ、歩み始めた覚悟

大学5年で芽生えた思い

 東京五輪の延期が決まるずっと前から、医師になるのは先延ばしすると決めていた。自分はどこまで速くなれるのか挑戦したい。もちろん、向上する自信もある。陸上の女子800メートルで2019年日本選手権5位の広田有紀(25)は今春、秋田大医学部を卒業した。医師国家試験に合格しながら研修医にはならず、出身地にある新潟アルビレックスRCに入団。五輪出場や日本新記録など大きな目標を抱き、アスリートとして力強く一歩を踏み出した。(時事通信運動部 青木貴紀)

◇ ◇ ◇

 医学部の大学5年生で臨んだ18年日本選手権決勝。自己新記録の2分4秒33をマークして4位に入った。「研修医になるのは先延ばしにするかも」。医師を志すきっかけとなった眼科医で開業医の母親に電話で伝えた。「好きにしたらいいんじゃない」。背中を押してくれる予想外の返答に驚いたが、覚悟が決まった。

 大学での6年間、試験や臨床実習など医学部生として多忙な日々を送った。並行して、自分で練習メニューを作成して男子選手と走りながら鍛えてきた。冬季練習をしっかり積めたのは、17~18年にかけてだけ。その成果を18年日本選手権で発揮。「冬季練習をちゃんと継続してできれば、目標としているタイムや大会に出られるかもしれない」との思いが強くなった。

 大学ラストイヤーの19年は日本学生対校選手権で2位。新潟高時代に国体や全国高校総体を制したが、大学では日本一に届かず、納得いくレースは最後までできなかった。年明けから冬季練習を中断して「勉強モード」に切り換え、2月上旬に受けた医師国家試験は無事に合格。「楽しく陸上一本で打ち込むための第一歩だと思って、勉強を頑張りました」

コロナ流行で揺れた心

 陸上選手として再スタートを切ったとはいえ、新型コロナウイルスの感染拡大に心を揺さぶられた。コロナと闘う医療現場の状況は耳に入り、大学時代の同期は大変な現場で研修医として歩み始めている。「今こそ医師が求められているのに、これでいいのだろうかと。医師免許を持っているのにせっかくある知識も生かせず、同期は医師として成長していく。もどかしい感情はある」と葛藤を打ち明ける。

 そんな時に励みとなったのは大学同期の言葉だった。「有紀ちゃんが陸上を頑張っているから、私たちも頑張れるんだよ」。自ら選んだ競技者として勝負する覚悟を、改めて胸に刻んだ。東京五輪は来夏へ延期となり、「正直、ほっとした。練習ができていなかったし、時間がほしいと思っていたので」。引き続き秋田を拠点として十分な準備期間を生かし、世界への階段を上がっていく。

 引退する時期は決めていない。まずは21年まで陸上に専念する。この2年間で2分1秒台や2秒台を安定してマークできる実力を身に付け、東京五輪は世界ランキングでの出場権獲得を視野に入れる。「21年に結果が出せたら、もっと追い求めたくなるかもしれない。そしたら、研修医になるのをかなり先延ばしにして、24年パリ五輪かなと思っている。お母さんをパリに連れていきたい」と目を輝かせる。

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