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「9月入学」の是非 学校現場の声は?

佐藤明彦(教育ジャーナリスト)

 新型コロナウイルスによる休校が長引く中で浮上してきた「9月入学」。大阪の高校生が署名サイトを立ち上げて賛同を募り、各地の知事が前向きな姿勢を示すなどする一方で、教育界からは「拙速な導入は避けるべき」など慎重論も上がっている。文科省では、2021年9月のスタートに向けたシミュレーションも行ったが、政府・与党では「拙速は避けるべき」との声が強まっている。ただ、議論は継続し、正式決定は夏まで待つとのことで、新型コロナウイルスの状況次第では、再び話が持ち上がってくる可能性もゼロではない。いずれにせよ、実際に9月入学に移行した場合、学校教育はどのような姿に変わるのか、その具体的なイメージはほとんど見えていないのが現実だ。10年後、20年後に「あの時、無理をしてでも変えておいて良かった」と言えるだけのメリットは果たしてあるのか。学校現場の声を掘り起こしながら、いま一度検証していく。

「9月入学を現場はどう受け止めているか
 休校が長引く中で、突如として浮上してきた「9月入学」。一連の報道を学校現場はどのように受け止めたのか。小中学校の教員を中心に、幅広く話を聞いた。

 首都圏の中学校で1年生を受け持つ女性教諭は、「6月に学校が再開しても、このままでは3月までに1年分の授業を終わらせるのは絶対に無理。文科省は1年生の内容を2年生に持ち越していいと言うが、学年単位で動く学校教育の仕組みからも無理がある。今こそ、政治がリーダーシップを取って、1日も早く『9月入学』を決めてほしい。日本の教員は真面目だから、そうと決まれば十分に対応できる」と、賛成の立場を取る。また、小学校で3年生を受け持つ女性教諭も、「最初は驚いた。でも、休校によって、このままでは多くの子どもが大切な行事を体験できない。かけがえのない時間を取り戻す上で、9月入学は一つの選択肢だと思う」と肯定的に捉える。

 一方で、「反対の立場を取る教員も少なくない。小学校で1年生を受け持つ男性教諭は、「『アクティブ・ラーニング』もそうだが、今の学校では教員は自らが体験してこなかったことを求められている。そのためには、ある程度の準備期間が必要で、2021年9月からのスタートは急すぎる。教員も子供も安心して迎えることができない」と話す。また、岩手県の教員として東日本大震災を経験し、1カ月遅れの5月始業を経験したことのある女性教諭は「空白期間をどう埋めるかは、教科書を終わらせることや学力をつけることだけで考える問題ではない。集団生活での多様な経験、人間同士の関わりも含めて、トータルに考えるべきことだ」と、安易に9月にずらすことに疑問を呈す。

 こうして見ても、「9月入学」に対する現場の受け止め方はさまざまで、賛否が入り乱れている様子がうかがえる。

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