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「遠距離授業」「自宅学習」先進地で行われていること 豪州「在宅教育事情」

柳沢有紀夫(文筆家/豪在住)

過疎地に住む子のために始まった「遠距離教育」
 オーストラリア内陸部の牧場地帯の人口は希薄で、近くに通える学校がないという子どもも多い。そのため、義務教育段階から「通信教育」で「自宅学習」するシステムが確立されている。

 今から15年以上前、ある雑誌にこんな内容の記事を書いたところ、かなりの反響があった。

 ところがコロナ禍の今、世界中でそんな「自宅学習」が「当たり前」の風景になっている。とはいえ当たり前になったのがあまりにも突然だったため、世界中の親や教員、そして誰よりも児童や生徒がその方法に悩んできた。

 ただ、現在では相当数の国々が、自宅学習の制度を構築。子どもたちはカリキュラムに基づいた規則正しい日々を送っている。こうした点でも日本は「コロナ対策で後れを取った」と感じるのは、何も筆者だけではあるまい。

 というわけで今回はオーストラリアがいち早く確立した「遠距離教育(ディスタンスエデュケーション)」というシステムについて紹介したい。こうしたシステムを日本でも確立することはコロナ禍で休校中の今だけでなく、その後もずっと絶対に必要なものだと筆者は痛切に感じている。そのことは後で触れるとして、まずはオーストラリアの歴史と現状を伝えよう。

 遠距離教育とはそもそもはその名のとおり、「超」がつくほどの過疎地に住む子たち(例えば内陸部にある広大な牧場に住む子で最寄りの学校まで200キロあるなど)が、通信教育を受けるためにつくられたものだ。

 だが利用してきたのは、過疎地に住む子どもたちばかりではない。両親が各地を移動する職業(例えばサーカス団や旅芸人や大道芸人、はたまた行商などだろうか)に就いている子どもや、親の海外赴任に同行し、居住地の近くに英語で授業を行う学校やオーストラリアのカリキュラムに沿った学校がない子どもなどにも利用されてきた。

 また、ある特定の分野の習い事などで通学に時間を費やしたくない子ども(例えばオリンピック代表や、プロの音楽家やバレリーナを目指す子ども)も利用することができる。

 さらには地方にある1学年が10人程度といった小人数制のハイスクール(日本の中学と高校に相当)では、予算的に教員の数も限られるため、美術や音楽といった専門性の高い一部の選択科目では、この「遠距離教育」を利用することも多い。実際、筆者の息子の一人は4年ほどオーストラリア内陸部にある小規模校で寮生活を過ごしたが、「遠距離教育」で「美術」と「日本語」の単位を取得した。

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