会員限定記事会員限定記事

市立の全小中学校で「オンライン授業」をスタート 熊本市

地震被害を教訓にしたICT教育推進が奏功

 熊本市は2020年4月15日、市立小学校の3年生以上の児童(約2万7500人)と市立中学校の生徒(約1万9000人)を対象に、インターネット回線で学校と家庭をつないだオンライン授業をスタートさせた。文部科学省の調査によると、同21日時点で休校措置を行っている1213自治体のうち、オンライン授業を導入しているのはわずか5%の60団体。政令指定都市としては熊本市のみで、約4万7000人もの児童・生徒を対象とした大規模な取り組みは、国内の公立小中学校では初めてだ。

 同市がオンライン授業の実施を決めたのは、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために市立学校の休校を春休み明けから5月6日まで延長することを発表した4月3日。「休校は5月6日までとしているが、状況次第で延長もあり得ると見据えている。児童生徒の教育を受ける権利を保障するには、これしかない」。同市の遠藤洋路教育長は早々にオンライン授業の導入を決断した理由をこう語る。

 ICT教育の拡充について、文部科学省は19年12月、23年までに小中学校の全学年で1人1台のパソコン配備を目指す「GIGAスクール構想」を打ち出した。ただし、この構想で想定しているのは学校内のICT活用までで、家庭と学校をつなぐオンライン授業ではない。熊本市が国の構想にも乗っていないオンライン授業に踏み切ることができたのは、16年4月に発生した熊本地震の被災体験と、そこからの復興の過程で教職員が体得したICT活用のマインドだった。

授業を待ちきれない子供たち
 「おはようございます」。午前9時45分、熊本市立帯山西小学校の6年生担任の松永宏子教諭が、児童一人一人に声を掛けていく。

 児童の表情や服装を素早く観察し、気になる児童がいないか目を配る。どの学校でも毎朝恒例の「健康観察」だ。ただし教室にいるのは、米アップル社製のタブレット端末「iPad(アイパッド)」を前にした松永教諭1人。児童の顔は、電子黒板のモニターの中にある。教室と各家庭をつないでいるのはウェブ会議システムのZoomだ。

 「10時に授業開始で、9時45分からオンラインにすることが可能です。児童には(10時までの)15分間のどこかでオンラインにすればいいと伝えているのですが、待ち切れないのか、45分になったらすぐやってくる子供たちが多いですね。子供たち同士でも声を掛け合って、活気があります」と松永教諭は「学級」の朝の様子を語る。

 10時。松永教諭が「では授業を始めます」と声を掛けると、子供たちも会話をやめ、カメラに向かって姿勢を正す。この日は国語の授業。詩と物語文を朗読し、感じ方を比べるという内容だ。松永教諭が「自分の思いや考えが伝わるように工夫して朗読しよう」と書いた紙をiPadの前に掲げながら「今日のめあて」を伝え、朗読の発表者がいないか声を掛ける。すると子供たちはZoomの「手を挙げる」機能を使って「挙手」をする。指名を受けた発表者が端末に向かって朗読を終えると、今度は子供たち同士でクラスメイトの朗読をどう捉えたか意見を交換した。

新着

会員限定

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ