拓己君は宇宙に強い関心を持っている。家族でプラネタリウムや天文台に出掛けた。携帯型情報端末のタブレットを使った通信教育、英語、三味線、サッカー、水泳…と通っている習い事も多い。
拓己君が自ら積極的に関われるものを見付けさせてあげたい、自信を持たせてあげたいという、親心が伝わってくる。小説「いま、会いにゆきます」で知られる市川拓司さんや米俳優のトム・クルーズさんなど、非凡な才能を発揮する発達障害者は少なくない。
「最近は障害故に天才肌みたいな人も紹介されるようになりましたが、実際にはそんな子は、そうはいません。うちの子も普通の子です。これという特技はありません」
「ただ…」と理彩さんは続ける。「時々、思いも寄らない成長があるんです。親が想像していないところで化学反応が起こるんです」
拓己君は幼稚園までは、人に触られると、びくっと体を硬くして嫌がった。入学した飯島小の支援級は元気いっぱいだった。拓己君のことを「好き、好き」とべたべた触る上級生がいた。理彩さんは不安を覚えたが、拓己君はいつのまにか慣れてしまった。安心できる環境の中で、触覚過敏が克服されたのかもしれない。
「ここまで、と親が線を引いてしまうと、化学反応は起きませんが、荒療治じゃないけど、人に触られることとか、うるさい場所にいることが、嫌ではなくなったんです。ちょっとずつ新しい場所で、出会い、経験をして化学反応が起きる、成長する。だから、諦めたくないんです。大事なのは折れないことです」
支援級の担任教員と保護者がやりとりしている連絡帳がある。次の日の持ち物、学校で、家庭で、拓己君ができなかったこと、できるようになったこと、注意してほしいことなどが、B5判のノートに細かい字でつづられている。
それが毎日だ。拓己君の成長記録でもある。拓己君が5年生になった今、ノートは5冊目に入った。
1年生の終わり頃の連絡帳にはこんなやりとりがあった。
理彩さん「幼稚園時代は、寒い時期に起きるのが苦手でした。今は、寒くても、眠くても、学校に行くのが嫌と一度も言わず、成長したなあと思っています」。
先生「学校に毎日楽しく来ることができるようになっているのが一番と思います。来年度も新しい課題や変化が出てくると思います。どうぞよろしくお願いします」。
先生「来年度は少しずつ周りの状況を柔軟に捉えられるよう意識した働きかけができればいいなと思います」。
4年生の通知表にはこうある。
「周りを見ながら行動でき、グループの友達からも信頼されていました」
拓己君にもうおどおどした様子はない。一方で、「筋緊張が弱く、姿勢を保つのが困難」な状態は今でも続いている。
「ノートを書く習慣が少しずつ身についてきましたが、学習への関心や意欲は、それまでの気持ちの浮き沈みによって大きく左右されることがまだ多く見られます」とも指摘されている。
理彩さんは、拓己君の将来を見通せているわけではない。成長は行きつ戻りつだが、一般級との交流を重ね、6年生からは支援級から一般級に転籍することを決めた。5年生の拓己君は今、転籍の準備の最終段階にいる。
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